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春 -8-
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『ぼーさん、今日ほんとごめんね~。おかげで助かったよ!』
「おー、ほりゃ良かったけども」
『今日なんか予定あったんでしょ?大丈夫だった?』
言われて、一瞬言葉に詰まった。
滝川のところに、麻衣から感謝の電話が来ていた。取ってみると、実に嬉しそうに年相応の可愛らしい声をあげて「ありがとう」と何度も言う麻衣に、ちょっとときめいたりときめかなかったり。
滝川にとって麻衣は娘のような存在だから、そこから恋に~なんて話にはならないのだけども(そもそも相手が高校生なので、いろいろとヤバイ)、娘の心からの感謝の気持ちが胸に沁みて夢心地のお父さんである。
そんな娘が心配しているのは、もちろん安原との約束のことだ。麻衣は滝川が安原と予定があったことまでは知らないが、予定を押してまで自分のワガママに付き合ってくれたことは理解している。
無条件に、「大丈夫だった」とは言えない自分がいた。
(約束の時間から大幅に遅れた……俺から誘ったにも関わらず、だ。それになんだか、今日の少年……ちょっとぎこちなかった……?)
いろいろと思うことがあった。
安原の、どこか無理をしているようなぎこちない反応が胸に引っ掛かっている。
もしかしたら、約束に遅れたことを怒っていたのかもしれない。
いや、少年に限ってそんなこと、とも思ったりもするが、そう断言するにはあまりにお互いを知らなさすぎる。
────そう、『安原に限って、約束に怒ったりしない』なんてことは、あり得ないのだ。
「あー……、大丈夫だ。お前が心配することねえよ」
しかしそれを麻衣に伝えるわけにはいかない。麻衣は無関係だ。そんなことを言って、まだ高校生の彼女に余計な心配をかけるわけにはいかなかった。
適当に話して電話を切って、一息吐こうとテーブルの上の箱に手を伸ばしかけて、はたと止めた。
(煙草……やめようと思ってたのに)
吸いたいと思って火を点けるわけじゃない。特に何か嫌なことがあったわけでもない。
それでもここ最近、無意識に手を伸ばしているような気がしていた。
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