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1.プロローグ
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ここは魔導大国シュトレン皇国の王宮。
そこの執務室で今まさに王であるヴァイスが自身の恋人へと別れの言葉を紡いでいた。
「エド。わかってくれるな?」
わかってくれるな?
何を?
三年半ずっと愛していると紡いできたその同じ口でその言葉を口にするのか?
お前だけだと、そう言っていたのは嘘だったのだろうか?
何の前触れもなく…この関係は終わりを告げるのだろうか?
倦怠期だったわけでもない。
つい昨日までは穏やかではあったが甘い空気漂う恋人関係だったではないか。
そうして突如切り出された言葉を混乱する頭の中で必死に考える。
いや。けれど自分は男だ。
子を望めないならいずれはこうなる運命だったのかもしれない。
恋に溺れてそこまで考えていなかった自分が悪かったのだ。
けれど愛していた。誰よりも愛していたんだ。
誰よりも愛し、忠誠を誓い、公私共に支えてきたつもりだった。
だからギシリと胸が軋むのは当たり前のこと―――――。
気づけば熱い涙が頬を滑り落ちていた。
胸が痛くて痛くて仕方がなかった。
けれどもう…どうしようもないことなのだろう。
王の決めたことは絶対だ。
現に彼の眼差しはどこまでも真剣で、迷っているようなものではなかった。
それならばここで縋ろうと、泣いて別れたくないと訴えようと、何も変わりはしないのだ。
「ヴァイス。いえ、陛下。謹んでそのお言葉をお受けいたします」
静かに頭を下げて受け入れるしかない無力な自分がただただ悲しかった。
「エド…」
こうして呼び掛けてくれるこの声が大好きだった。
そっと頬に伸ばされる温かな手が大好きだった。
抱き寄せてくれるその広い胸が大好きだった。
けれどそれもすべてこの手をすり抜けていく。
「陛下。これからは一人の忠臣としてお仕えさせていただきます」
だからそっと彼の胸を押しやり、この言葉を口にするのが今の自分にとっての精一杯だった。
恨むことなどできはしない。
彼はこの国の王なのだから。
結婚し、後継へと繋ぐ。
考えるまでもなくそれはこの国にとって必要なこと。
自分はひと時の夢を見たのだ。
幸せで甘美な夢を……。
だから毅然と顔を上げ、背筋を伸ばし胸を張ってこの場を辞そう。
それだけが今の自分にできること。
「陛下のお幸せを心より願っております」
こうして静かに礼を取り、ゆっくりと踵を返してその場を去った。
いくら胸が痛もうと、過去はもう振り返らない。
そうして去った自分の背を、国王がどんな表情で見送っていたのかなど知らぬままに、静かに扉は閉まっていった。
*****
時を同じくして、とある貴族の家で婚約破棄の話が秘密裏に進んでいた。
「ミルチェ様。本当によろしいのですか?」
協力者でもある貴族がそんな風に言葉を振ってくるが、尋ねられた女―――ミルチェの方は悪びれることなく笑顔で答えた。
「いいのよ。だって公爵家の嫡男に嫁ぐよりも国王陛下に嫁ぐ方がいいに決まっているもの」
そう。今回大々的に国王陛下の妃を決めるという一大イベントがあるのだが、そのパーティにミルチェもまた参加することになっていた。
けれどそれこそ国中の貴族の中から集められる令嬢の中で自分を売り込むにはちょっとやそっとの目立ち具合では目に留まらないだろう。
だからここで自身の婚約者を使い、国王の目に留まろうと思い立ったのだ。
「カミルもきっとわかってくれるわ。大体あんな地位だけしか持っていない無口な男、私に使ってもらえてありがたいと思うべきなのよ。精々引き立て役にでもなってもらわないと…うふふ」
罪などいくらでも捏造できるのだ。
自分をより可哀想な女として売り込むべく、婚約者には悪役になってもらうとしようではないか。
「ああ。今から楽しみだわ♪あの麗しの国王陛下のお目に留まれるなんてまるで夢のよう…」
一番良いタイミングで、誰よりも目立つ中涙ながらに婚約破棄を訴え、国王陛下の胸に縋って見せよう。
きっと陛下は自分を受け止めてくれるに違いない。
こうしてそのパーティの日に向かって、ミルチェは嬉々として計画を練り始めた。
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