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大きな一歩
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記者会見当日となる。
ズラっと並ぶ席に事務所スタッフ、メンバー、担当医が座っていた。
活動休止していた俺の緊急会見という事で集まったマスコミは、席に並んでいる顔ぶれに只事ではない雰囲気を感じ取ってるようだ。
真ん中の二つが俺と名瀬の席。
時間ギリギリに座る事になっていた。
マスコミの目に入らないパーテーションの裏で、少し震えている俺を名瀬がぎゅっと抱き締める。
これから起こるであろう騒動を思うと、落ち着いてなんかいられない。
「名瀬さん、洸介さん、時間です」
マネージャーの声に促されて会場へと一歩踏み出す。
現れた俺を見て、一瞬会場内が静まり返りその後に大きなざわめきとフラッシュの嵐に包まれる。
眩しくて振らつきそうになった身体を名瀬がしっかり支えてくれて、席に着くことができた。
「では、只今より緊急記者会見を始めます。まずは佐久本から一言」
スタッフの開始の言葉で会見が始まった。
立ち上がった俺を、またフラッシュの嵐が襲う。
「会見が終わるまでは写真を控えてください!」
あまりの眩しさに声が出せないでいると、スタッフから写真を禁止する一言。
落ち着いたところで話し始めた。
「この度は急な活動休止で大変ご迷惑をお掛けしております。この場を借りて関係者の皆様に謝罪をさせていただきます。申し訳ありませんでした」
深く一礼し、30秒数えて頭をあげる。
「この身体を見てお分かりのように、私佐久本洸介は妊娠しております。現在7ヶ月の後半です。父親は隣に居る名瀬智希で、長い間交際しておりました」
名瀬が立ち上がり一礼すると、ざわめきが一層大きくなった。
「詳細は担当医から説明させていただきます」
俺たちの代わりに担当医が話し始める。
俺が性別的には男である事。
世界には数件だが男でも出産している事例がある事。
普通の恋人同士のように愛し合った結果妊娠した事。
説明後にすぐ質疑応答となる。
「お二人は交際されてたという事ですが、ゲイという認識でよろしいですか?」
「特に男が好きだという事はありません。ただ好きになったのが洸介だった...それだけです」
「洸介さんは?!」
「俺も一緒です。親友でしたが、いつの間にか恋愛感情を持っていました。他の男性に恋愛感情を持ったことはありません」
想定内の質問。
そして、いつから交際していたか、妊娠した時の心境、これからの子育てについて、活動再開はいつになるのか...等聞かれた。
それぞれに決まっていた返答し、次いでメンバーへと質問になる。
交際を知っていたのか、妊娠を聞かされてどう思ったか、今後の活動への影響は...等。
交際については知らなかったと発表された。
事務所全体で同性愛を認めていたと言われないようにする為だと言う。
そして最後の質問。
「何故世間に公表しようと思ったのですか」
「男が妊娠するという常識では考えられない出来事に遭遇し、初めは驚きこの事実を隠そうと思っていました。産まないという選択肢は無く、ひっそりと産んで隠して生きていこうと...」
そこまで言って、一呼吸置く。
机の下で名瀬の手をしっかりと握った。
「でも、俺の周りには名瀬が居て、担当医が居て、メンバーが居ました。皆俺たちを支えてくれて、守ってくれると言いました。だから公表を決めたんです。俺たちは世間に後ろめたい事をしてる訳じゃない。それを伝えたかった」
「きっと俺たちの関係を認められない人もいると思います。それは人それぞれだから仕方ありません。ただ、静かに子どもと暮らしたい。洸介との願いはそれだけです」
立ち上がり一礼。
「以上で会見は終了となります」
フラッシュの嵐が止まない中、スタッフに促されて会場を後にした。
ざわめきが世間の声を反映してるかのようだった。
夕方に号外が出て、翌日も俺たちの話題一色である。
産婦人科の医師が詳しく説明したり、応援したいですねなんてキャスターの言葉があったり...どの番組も変わらない感じ。
事務所が全面的にバックアップする事を告げているからか、マスコミは受け入れるような報道が多かった。
改めて事務所の力を実感する。
そして全力で守ってもらえてる事も。
これが世間の反応とは思ってはいない。
テレビは綺麗な部分だけを切り取られて放送されるから。
それでも、有難いと思った。
今はまだ綺麗な世界を見ていたかった。
兎に角、世間に公表するという大切な仕事は終わった。
大きな一歩を踏み出す。
後は出産を待つだけだ。
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