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ざわざわと何人かの人が話している声が遠く聞こえる。
苛立ちを含んだような低い声と、それをなだめようとしているちょっと呆れたような声。
____『 だからっ、俺が来た時にはもういたんだよ!』
____『 誰が鍵をかけたんだよ...涼がまだいたのに』
____『 一歩間違えてたら死んでたかもしれないんだぞ』
____『 静かにしてください、桜木君が起きます。』
自分の名前が聞こえた気がして意識がはっきりとした。
ツンと鼻に付く薬品の匂い。
きっちりとクリーニング出されてるであろうパリッとした
シーツと掛け布団の感触。
少し硬いマットレスを背中に感じて、軽く身体を動かして
みると衣擦れの音がする。
うっすらと思い瞼を上げて目だけで周りを見た。
隅から隅までが白い道具で統一された四角い部屋が
視界に広がる。
あぁ、ここは保健室か.......
「 大丈夫です、もう起きてるので....... 」
じくじくと痛むこめかみを押さえながらなんとか身体を起こしすと、その場にいた全員の視線が一気にこちらに向いた。
俺の目の前には、
体育の授業の時の先生と俺のクラスの担任、それから保健の先生と、何故か白石君と千里までいた。
男ばかりでむさ苦しいな、となんとなく思う。
みんなが心配そうに眉間にしわを寄せてこちらを見ている。
ずしっと心が重たくなって気分が悪くなった。
「 涼っ!良かった。目ぇ覚まして....... 」
1番に俺の方に駆け寄って来たのは千里だった。
ベットに両手をついて身を乗り出し、そのまま倒れ込むようにして俺に抱きついてきた。
一気に体重をかけられて胃が潰れそうな気がした。
「 こら、桜木君まだ万全じゃないんですから。ほら早く離れてください。」
保健の佐藤先生が千里を引き離してくれ、コップに水道水を注いで俺に差し出してくれた。
思わずそれを奪い取るようにして受け取り、カラッカラに渇いていた喉に一気に水を流し込んだ。
ぷはぁっ、と息を吸い込み呼吸を整えると、
やっと頭が冴えてきて気持ちが落ち着いた。
佐藤先生は少し安心したように微笑んで、空になったコップと入れ替わりに体温計を渡してきた。
「それ計ってください、まだ熱があると思うので。」
言われた通りに脇に体温計を挟み、猫背になってぼーっとしていると、「 ちょっとごめんね 」と言って佐藤先生が体温を確かめるようにおでこや首元、脇腹や手首などあちこちをを押さえてきた。くすぐったくて身をよじると、動かないでください、と制されたから無抵抗のまま身を委ねた。
熱を計っている間なんとなく部屋の隅に目をやると、苦い顔をしていると白石君と目が合った。
先生に伝えんなって言ったのに.......
大丈夫って言ったのに.......
そんな気持ちを込め、目を細めてベットの上から白石君を睨み付けると、決まりが悪そうに視線を逸らされた。
.......このやろう。
ピピピッと無機質な機械音が部屋に響き渡り、先生が俺の脇から体温計を抜き取った。
「 ................37.8度.......。」
まぁ下がった方でしょう、と言って先生が手元の書類に何か書き込んでいる。そして目を書類に向けたまま俺に問いかけてきた。
「 熱中症ですね。酷い脱水症状も起こっていたので.......もう少し発見が遅れたら危なかったです.....頭痛や吐き気は?」
「 あっ、いえ.....吐き気はないです。でも、頭が痛いです。
あと.......さっきから耳鳴りが酷くて。」
目覚めた時から耳の奥でキンキンと鳴っている耳鳴りが
鬱陶しくてため息をつきながら訴えると、佐藤先生は眼鏡を
クイっと上げて「芳しくありませんね、」と言った。
そして冷蔵庫から保冷剤を出して俺のうなじに当ててきた。
ひんやりとした感じがうなじから全身に広がるような感覚がし
て、気持ちよくてぼんやりと目を瞑る。
「 今日は安静にしておいた方が良いでしょう。念のため明日は学校を休んで家にいることをおすすめします。」
「 .......はぁ。」
やっぱりめんどくさいことになったと思って気分が下がる。
もし明日学校を休んだら、クラスの人達に何かあったんだと思われないかなとか、家にいたら親に苦い顔されないかなとか
そんなことを考えてしまって上手く頷けない。
「 なぁ、桜木。お前の親御さんに連絡したんだが.......お父さんは仕事で抜けられないって言ってて.......お母さんの方には繋がりもしないんだ......... 」
俺が俯いていると、担任の先生がやってきて困ったような顔で
頭を掻きながら言った。
「 ………お母さんに連絡したんですか?」
額からどっと冷や汗が流れる。
ドキドキと嫌な音を立てて鳴り出す心臓の鼓動を意識しないように、ベットのシーツをぎゅっと掴む。
最悪だ、家に帰ったらなんて言われることやら。
あぁ、もう嫌だ。
明らかに動揺した俺を怪訝そうな顔で見た先生は腕を組みながら俺に向かって聞いてくる。
「 桜木、両親以外に迎えきてくれそうなご家族はいるか?」
もちろんそんなものはいない。
「 大丈夫です、一人で帰れますから.......」
そう言って布団を剥ぎ取ってベットから降りた。
「 ちょっ、おい涼!!」
千里が俺に向かって慌てたような声を出す。
意識はしっかりとしているのに、体は言う事をきかなくて。
床に両足をつけた瞬間立ちくらみがして、気づいた時にはそのまま地面に向かって倒れ込んでしまった。
................が、咄嗟に横から入ってきた千里に受け止められ、
幸いどこも打たなかった。
「.......ありがと。」
「 ダメでしょ。.....急に起き上がったりしたら.......。」
「 煩い。」
側から見たらどっちが兄なんだか分からない。
弟に助けられたのが、恥ずかしくて情けなくて。
自分の体さえ思い通りに動かせないのがもどかしくて泣きたくなってくる。
「 ったく.......もういい。お前ら兄弟は今日は俺が家まで送るから.......本当は禁止だけど今日だけ特別な。」
担任がそう言って俺と千里の肩にポンッと手を置いた。
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