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「 桜木、こっち来て」
どうしたらいいか分からずにグラウンドの端でぼーっと突っ立っていると不意に白石くんに呼ばれた。
白石くんに近づくと、彼の隣には背の高い男の人が1人立っていて、俺と目が合うと小さく首を傾げてにこりと笑った。
柔らかそうな黒髪が彼の会釈とともに揺れて、その余裕と落ち着きからすぐに3年生だとわかった。
「あの、こんにちは、えっと俺……」
「 あぁ、心配しないで。圭介から話は聞いてるから。陸上部の見学に来たんだよね?」
「え?」
「ん?」
話は聞いてるから、って言われても俺は白石くんに何も話していないし、もちろん向こうからも何も言われてない。
先輩も話が噛み合ってないことに気づいたのだろう。
横にいた白石くんをじろりと睨んで肩をがっしりと掴んだ。
「 け〜い〜、お前はほんとに自分勝手というか人を振り回すよね?桜木くんなにも知らないって顔してるけど?」
「 そうすね。何も言ってないんで。」
ぎょっとして見上げると、白石くんはちっとも悪びれてない様子で肩をすくめる。
「桜木、紹介するわ。この人は3年生で、陸上部の部長の赤羽(あかばね)先輩。」
そして何事もなかったようにさらりと先輩の名前を紹介されるが、まだこの状況についていけずに固まる。
そしてそんな俺を気にするそぶりも見せずに、白石くんはさらりと「赤羽先輩、桜木のこと陸部に入れてもいいですよね」と口にした。
ん???
聞き間違いかな。
聞き間違いだよね。
いくらなんでも何も聞かされずにその日に部長と対面させられて部活に入ることになるなんてあるわけないよね。
さっきまでは、せっかくここまで来たんだから最後まで付き合ってやろうなんて思っていたけどこれはちょっと……いや、かなり思ってたのと違う。
昼休みの屋上での出来事といい、今といい、
白石くんて言うこととかやることがなんか変っていうかぶっ飛んでるっていうか。
「 あの……俺帰っていいですか」
2人の横を通り過ぎてグラウンドから退散しようとすると「おいこら」と白石くんにがっしりと腕を掴まれた。
「 ジャージに着替えさせられてグラウンドに来た時点で察しろよ」
「 やっぱりついてくるんじゃなかった……」
しっかりと地面を踏ん張って前に進もうとしているのに、白石くんはビクともせずに俺をホールドしたまま一歩も動かない。腕力と体幹の無駄遣いだよ、絶対。
「 はなしてよ、俺もう帰る。」
「 放課後は俺に付き合うって約束だろー」
「 こんなことになるとか聞いてないもん」
「 だって言ったらお前来てくれないだろ!」
「 来ないよ!」
「 ほらな!!!!!」
だんだんお互いの声が大きくなって言い合いもヒートアップしていくが負けられない。
けれどその間にも部活の準備をしている部員からチラチラと横目に見られているのが分かって本当に居た堪れないし早くここから立ち去りたい。
ちくしょうめ、あとで絶対覚えてろよ。
このままじゃお互い譲れそうにないので助けを求めて横にいた赤羽先輩を見上げる。
俺の必死な眼差しを受け取れば先輩も分かってくれるはず。
そして早くこの王様を説得して下さい。
腕がもげそうです。
赤羽先輩はうーんと首を傾けながら腕組みをする。
「 圭介の話じゃ、桜木くんは入部希望者で今日は陸上部の体験入部に来てくれるってことになってたんだけど……」
えぇ、
そんなでたらめを部長に話して俺を黙ってここまで誘導したってことか。なんてやつだ。
赤羽先輩はその人の良さそうな笑顔のまま、俺を見つめて続ける。
「 俺はてっきり陸上経験者の可愛い後輩が増えると思って楽しみにしてたんだけど、桜木くんはいっさいその気がないんだよね……」
「 え?……、」
「 今年は新入部員が増えた割には、2年の数が少なくて……経験者が1人来てくれるだけで本当にありがたいし大歓迎なんだけどなあ、」
「 ………えっと、、」
もしかしなくても圧をかけられている、、、??
「 でも俺は何も聞かされてなくて、ほんとにそんなつもりじゃなくて……」
「 うん、でもせっかくここまで来てくれたんだし、今日は見学だけでもしていかない?今は1年の体験入部期間でもあるから、桜木くんと同じようにまだ陸上部じゃない人もたくさんいるんだよ〜」
そう言われて周りを見てみると、たしかに体操服をきた一年生らしき男女がぞろぞろと一箇所に集まりつつある。
さっきも言っていた通り、まだ体験入部の段階とはいえ結構な人数がいる。指導役の2年生が欲しいと言っていたのは本当のようだ。
「 いいじゃんちょっとくらい。黙って連れてきたのは謝るから」
白石くんの腕の力がふっと弱まったと思えば、拗ねたような表情をしてじっと見つめてくる。
そんな風に言われたら俺がすごく非道な人間のように思えてくるじゃんか、、、
さっきまであんなに強情だったのに急にしおらしくなるなんてズルくないか?
赤羽先輩も結局白石くんの味方だし、多分最初から俺に拒否権無いよね。
はー、とため息をつく。
「 わかりました。じゃあ今日は見学だけさせてもらいますね。」
ここでだらだら逃げようとしても白石くんは諦めてくれなさそうだ。それに、こういう時最初にちゃんと言うことを聞いとかないとあとから余計に面倒くさいことになるということを俺は千里で何度も学んでいる。
未だに掴んでくる白石くんの腕をほどきながらそう言って、「今日はお世話になります」と先輩に頭を下げた。
赤羽先輩は驚いたように目をぱちくりさせて小さく拍手している。
「わー、礼儀正しい良い子だねぇ。圭介にこんな友達がいるなんて思わなかったよー。」
「いやいや、何言ってんすか部長。俺だっていつもいい子でしょ?」
「え、なに?よく聞こえないんだけどなんか言ってるー?」
テンポの良い2人のやりとりがおかしくてつい「ふふ」っと笑い声がもれてしまう。
「 あー、桜木くん笑うとめっちゃ可愛いね。もてそ〜」
いつの間にか先輩に目の前から覗き込まれて驚いた。
白石くんの時も思ったけど、赤羽先輩もなかなか美形だ。
垂れた目尻と泣きぼくろが絶妙な甘さを出していて真正面から見ると綺麗な顔をしていることがよく分かる。
この部活はイケメンしかいないのだろうか。
サラサラの黒髪が目の前で揺れて、心が少しだけ浮ついた。
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