アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
二
-
自殺が失敗した翌日、会社で理不尽なことでこっぴどく叱られ、妻に送ったメールの返信を待つ毎日に逆戻りした。
ゴミが散乱した床を掻き分け、ベッドに辿り着くと死んだようにそこに倒れた。
「…………」
沈黙と沈黙そして沈黙。その沈黙に耐えきれなくてテレビをつけた。画面の中ではさぞ幸せな家族モノのドラマが繰り広げられていた。
普通の人ならこれに感動したり、憧れたりするのだろうか。
……正直、妻に逃げられた人間が観ていいものじゃない。自己嫌悪が悪化するだけだ。
「クソ……」
付けたばかりのテレビを消して、リモコンを机に叩きつけると僕は『死に場所』を探しに夜の街に繰り出した。
大通りから一本外れた小道を歩く、今の時間帯だとまだ人が多い。
酔っ払った男に、残業帰りのくたくたに疲れきった男は今にも寝そうだ。そして、そういうやつを狙ったスリ野郎。
小道から小汚い裏路地に入る。ここには商店街のゴミ箱が集結してるからよくホームレスがそのゴミを漁りに来る。
(あ)
裏路地を少し進んで三つ目のゴミ箱が見えてきた所だった。昨日のゲイの男に出くわした。
うわマジかよと舌打ち一つして僕は咄嗟に壁の隙間に身を潜めた。
男はこっちには気づいていない様子で、もう一人の男と会話をしていた。
(あーダメだ。何言ってるか分からない)
確かに男の声が聞こえるが詳しい内容までは聞き取れない。
ドン、ガシャン、と唐突にゴミ箱が横倒した大きな音聞こえて、気になった僕は壁から男の姿が見えるように顔半分だけ外側に出した。
そこには血塗れのナイフを手に突っ立ていた男の姿が見えた。足元には太った血塗れの男……いや死体の、内臓がちょびっと零れてて……なんか少し……いや結構グロテスクだ。しかし、なんだか思ったより現実味がなくて吐き気すら起こらない。
「そこにいるのは誰?」
明らかにこちらの方に向けた声。人を殺したあとだっていうのに無感情で気味の悪い声だ。
あの男は笑顔だけではなく、声も気味が悪いなんて神様も酷いことをする。
「出てきなよ、隠れられるイライラする。卑怯だよ」
はぁ、と溜め息をつくと僕は観念したように裏路地の狭い隙間から身を出す。
「あぁキミは昨日の暴力野郎、まだ生きてたんだ嬉しいよ……随分顔色が悪いね、嫌なことあったの?」
「あぁ、あんたに会った」
「そりゃごめん、あ、それより死体をゴミ箱に入れるの手伝ってくれない?ぼくって力が無くてさ」
「嫌だ」
「あっそ」
そう吐き捨てると男は持っていたナイフで死体を切り刻み始めた。まるでそれは魚の調理のようで、アジの開きとか、刺身を作る時に三枚おろしする時のそれをふと思い出した。
そうなると、死体を切り刻むという表現ではなく『死体を卸している』の方が適しているような気がする。
「よしこれで大丈夫」
何が大丈夫なのだろうか。と細かくなった死体を一個ずつゴミ箱に放り込んでいく男を見ながら思った。
ああ、なんてこった。明日の朝、食事をあさりに来たホームレスが悲鳴を上げるなんてどうでもいいところを想像してしまった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 4