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砦を出発して2週間、ようやく王都のすぐ手前の街に着いた。
当初は街や村に寄る度、緊張しまくって挙動不審になってたライも、その内ちょっとは慣れたようだ。こわばった笑みではあったけど、手を振り返せるようにもなっていた。
王都が近付くにつれ、自然と魔物の遭遇率も低くなる。
ライが「破魔の剣」を抜いて飛び出すこともなくなったし、魔物と対峙して雄叫びを上げることも減った。
時々昏い目をしてる時があるのは気になるけど、あれだけボロボロだったんだし、しばらくは仕方ないだろう。
「いよいよ本番だ、堂々と手を振れよ」
晩餐を共にしながら激励し、相変わらずの白い顔を覗き込む。連日の行軍のせいか、砦を出る時よりやつれたような気もする。
目の下にクマができてるけど、さすがにオレだって疲れたし、それはオレらに随行して来た騎士団の連中も一緒だろう。
ライは色が白い分、目立って見えるのかも知れなかった。
「ちゃんと夜、寝てるのか?」
オレの問いに、こくりとうなずくライ。
微妙に目を逸らしてるのが気にはなるが、弟じゃないんだし、年下でもない。悪夢を見るのはどうしようないんだから、それ以上は言いようがなかった。
「まあ、ちゃんと凱旋できるならいいけど。大勢が見てる前で、倒れたりするなよ」
「しません」
こくこくうなずくライを、「ふーん」と鼻を鳴らしながら眺める。
小柄で細い体も、白い顔も、眉が情けなく下がってるとこも、何もかも頼りなげに見える。その右手の剣ダコや、魔物と戦う様子を見なきゃ、とても強いとは思えない。
背筋を伸ばしてまっすぐ立ち、人々の歓声に堂々応える彼の姿を、1番見たいと思ってるのは、もしかしたらオレなのかも知れなかった。
凱旋パレード本番、当日は朝からよく晴れていた。
宿泊してる街の領主の屋敷は早朝からバタバタで、オレも早々に起こされた。
客間に備え付けの熱い風呂に入り、身支度を整えて簡単な朝食を取る。その後は豪華な礼服を着せられ、王宮からの使者と面会。パレードの最終確認に、凱旋式典の打ち合わせ……。
やる事や確認事項は相変わらずいっぱいあって、凱旋本番に緊張する暇もない。
「勇者はどうしてる?」
面会の合間に侍従に訊くと、どうやら教師陣に囲まれて、最終講義を受けてるらしい。姿勢とか手の振り方、式典作法、どれも復習が欠かせない。
目を回してるんじゃないかって、ちょっと気の毒に思ったけど、1人でぽつんと部屋で待機し、緊張に襲われてるよりマシだろうか。
「少しは話す時間、ありそうか?」
できればもう1度ゆっくり話をしたかったけど、困ったように首をかしげる侍従を見て、無理そうだなと諦めた。
王都のパレードは、それまでの街や村で見たのとは、やはりケタ違いに派手で豪華だった。
音楽隊を先頭に、真新しい鎧を着けた騎士団が半分は徒歩、半分は騎馬で行列を組む。
オレと勇者ライを乗せた山車も、金銀やたくさんの花で派手に飾られて、それを見た民衆が歓声を上げた。
鳴り響く音楽。
わあわあと空に轟く歓声。
魔法で散らされた光と共に、色とりどりの花も舞う。
大通りを左右から囲む民衆は、いつもの鎧の騎士団が並ぶ向こうから、こっちに手を振りながらひたすら何かを叫んでいる。
賑やかを通り越して騒々しく、誰が何を言ってるのか、もはや何も分からない。
王家の新年祝賀パレードより、もしかしたら人が多いんじゃないだろうか? だが、勇者が姿を見せるのは久々なんだし、当たり前かも知れない。
王家より人気がどうとか、そんなことは関係ない。次期王であるオレの隣に、こうして今、勇者ライが立って並んでる――これこそが、我が王家の1番の目的だ。
余裕の笑みを作り浮かべ、民衆に手を振りながら、真横に立つライをちらりと見る。
ライは、今までさんざん特訓した通り、まっすぐに背筋を伸ばし、精一杯の余裕を演じながら、押し寄せる民衆に笑みを振りまいている。
腰に帯びるのは、魔王を斃したという「破魔の剣」。
その輝く刀身は、大人しく鞘に納められたままだというのに、横にいるだけでじわじわと熱さを感じた。
どんなに眠れない夜を過ごしていても、時々挙動不審でも、やはりライは「勇者」だ。
「勇者」だ、けど――その彼が、うつろな昏い目をしてることに、じわじわと不安が押し寄せる。
ぞくっと背筋が震え、何だかたまらなくなって、衝動的に真横の細い肩に腕を回すと、民衆の歓声がひときわ高く大きくなった。
「笑え。オレがついてる」
やや目線の下にある、形のいい耳にこそりと命じる。
ライは昏い目のままオレを見て、それからぎこちなく口角を上げた。
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