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勇者ライと寝室を共有し、寝室を挟んだ隣の部屋をライに与える事にした。
……そのことを午後からの宮廷会議で報告すると、父王には面白そうに笑われたものの、幾つかの反対もあった。
「それはご正妃のお部屋ではありませんか!」
反対の理由としてはそういう意見が最大だったが、世界を救った勇者があんな状態なのに、妃を娶るとか、そんな気になれる訳もない。
婚姻の予定もまったくないし、縁談を耳にする余裕だってない。だったら今、空いている部屋を有効活用したっていいだろう。
今のオレにとって大事なのは、側近にと求めている勇者ライの健康だ。
「破魔の剣」に選ばれ、それを振るって魔王を斃し、その侵攻を食い止めた勇者。誰よりも努力して、誰よりも輝いて、誰よりも強くて――そんな勇者ライを、オレの側近として迎えたい。
いつかオレが王になる時、その隣にはライが立っていて欲しい。
どこかの高貴な姫、という漠然としたイメージしかない妃より、今のオレにはライの方が大事だった。
「もう決めた事だ。ライの体調も、それからライのスケジュールも、当分はオレが管理する。オレの承諾なしに、彼を社交に連れ出すな」
管理するといっても、実質はオレの部屋付きの侍従らに任せることになるのだが、それでも現状よりはマシだろう。
目を離すとどこまで無理を重ねるか分からない彼に、これ以上の負担はかけさせられない。
閉じ込めて囲おうという訳じゃないのだ。ただ、管理はさせて貰う。
オレの目の届かないところで、彼が倒れたり、泣いたりするのを、これ以上見過ごせる気がしなかった。
オレの管理宣言を聞いて、貴族の一部がざわめいた。
どさくさに紛れてライを茶会に誘った者たちだろうか? オレの目をかいくぐり、彼に無理をさせようとは、一体どういう思惑があったのだろう?
ライを通じてオレに取り入る? それともライ個人を取り込むためか? それともライを過労で倒れさせ、オレから引き離そうとしたのだろうか?
……だとしたら許しがたい。
ざわめく貴族たちを、じろっと睨む。
「勇者ライには、しばらくの静養が必要だ。オレの元で王宮に住まわせるのに問題があるというなら、ライを連れて、いっそ離宮に籠ってもいい」
キッパリと宣言すると、貴族たちはまた顔を見合わせてざわめいた。結局、父王が「いいだろう」と言ったので、この件は一応解決だ。
「勇者殿が女なら、また問題ではあったがな」
ニヤッと笑いながら下世話なことを言う父王に、「邪推です」と言い返す。
ライが女なら? そうしたら最初から、あんな無理はさせなかった。過労で倒れることもなく、熱を出して放置されることもない。
オレが心配するような事態には、ならなかったに違いなかった。
会議を終え、大量の書類を抱えて執務室に戻ると、部屋付きの侍従がやって来た。
「ご報告致します。勇者様のお部屋の準備、整いました」
「そうか、ご苦労。ライはどうしてる?」
書類から顔を上げ、手を止めて侍従に訊くと、侍従は心得たようにうなずいた。
オレが会議に出ている間、ライは1度目を覚ましたらしい。不安そうに「ここは?」と訊いたものの、説明するまでもなく寝入ったという。
例によってうなされていたようだが、砦の時にも世話になった魔法使いが、先に防音魔法をかけてくれていたそうだ。
どんなに騒いでも、悲鳴を上げても、ライのあの悲痛な絶叫が部屋の外に漏れることはない。防音魔法をかけるついでに、気休めにしかならないとは言いながら、睡眠魔法もかけてくれたらしい。
過酷なトラウマのせいで、ぐっすり眠ることはできないのかも知れないが、これで少しでも安眠の足しになればいいと思う。
オレにできることは少ないが、それでもできる限り守ってやりたかった。
夕方になる頃には熱も少し下がっていたから、夕飯を一緒に取ることができた。
といっても、大広間での晩餐とかじゃなく、オレの部屋で2人ひっそり向かい合っての食事だ。
ここがオレの部屋だと聞いて、ライはかなり恐縮していたけど、客間に戻るとは言わなかった。
「いつまでも客扱いはおかしいだろう」
オレの言葉に「そう、ですね」と、ためらいながらうなずくライ。
「どうせオレの側近になるんだ。オレの側にいた方が、お前も仕事しやすいだろう?」
「仕事、ですか?」
彼は少し虚ろな目をして、よく分からないと言わんばかりに首をかしげたが――。
「いつか王になるオレの横に立ち、オレと国とを守ることだ」
そう告げると、「守る……」と呟いて、こくりと1つうなずいた。
今までも、さんざん同じことを言い聞かせて来たように思うけど。もしかして、耳に入っていなかったんだろうか?
人々の歓声と称賛を受け、戸惑いつつ手を振っていたライ。「笑え」というオレの指示に従い、いつも引きつった笑みを浮かべていた。称賛の中で光を浴びながらも、その目は昏い。
残留者の引き上げについての報告も受けているし、向こうの大陸の状況がどれだけ過酷だったかも、以前より分かってるつもりだ。
多くの仲間を死なせたという、負い目もかなりあるのだろう。気を抜けない旅の連続で、気力も何もかも使い果たしてしまったのだろう。
だが、過去の地獄より、未来の楽園を見て欲しい。
ライが昏い目をまたたかせる。
衝動的に抱き締めたくなったけど、食事中だし、ナイフとフォークを持ったままだし、間にテーブルもあったから、そんな行動はしないで済んだ。
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