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入浴を終えて寝室に入ると、ライも同じく入浴を終えたらしい。白い夜着をまとって、ぼうっとベッドに座っていた。
「熱はどうだ?」
声を掛けながらゆっくりとベッドに近付く。
ライはギクッと視線をオレに向け、それから静かに息を吐いた。
「もう、ないです」
うつむきながらの応えを聞き流しつつ、彼の額に手を当てる。そこは微かに冷んやりしていて、確かに熱はないようだ。
ホッとして窓際のソファに座ると、「あの……」って声を掛けられた。
「あの、オレ……やっぱり、元の部屋に」
居心地悪そうに身を竦めながら、おずおずと言われてモヤッとする。
「ダメだ」
キッパリ否定してじろっと睨むと、ライの肩がビクッと揺れた。
「目を離すとすぐに無茶するし。知らない内にあれこれ予定を入れられてるし。監視する者がいないと、オレが不安なんだ」
オレの言葉に、ライがギクシャクと頭を下げる。
一応悪いと思ってるのか、本当に反省してるのか、顔や態度だけじゃ分からない。
「それとも、オレと一緒はイヤか?」
ズバッと訊いてやると、首をぶんぶん横に振られたものの、本音でどう思ってるのかも、やっぱりよく分からなかった。
けど、会議にかけて了承も得たし。今更手放す気にはならない。
すっとライから目を逸らし、デキャンタに用意されたワインをグラスに注ぐ。
「まあいい。乾杯だ」
グラスの片方を差し出すと、ライがおずおずと受け取った。
「お前の安眠に」
グラスを掲げて、冷えたワインをぐっと飲み干す。ライも同様にグラスを傾け、時間をかけて飲み干した。
飲み切れなかったワインが、口元から白い喉をつうっと落ちる。
「んっ」
小さなうめき声の後、ぷはっと漏らされる吐息。
真っ白だった顔がふわーっと赤らんで、やはり酒に弱いなと思った。
「だいぶ飲み慣れたか?」
ふふっと笑いながら、空になったグラスをワインで満たす。
「いえ、あの……分かりません」
ライは無造作に首元を手の甲でぬぐい、赤くなった顔をオレに向けた。
色気のカケラもない仕草なのに、妙に扇情的に感じるのはなぜだろう?
側近にと望んでる最強の勇者に、何をドキッとしてるんだろう?
オレが彼に求めてるのは、隣に立ち、治世の補助をすることであって、断じて色事じゃないハズだ。
昼間に色々あったせいで、酒の周りが早くなってるんだろうか?
2杯目のワインを飲み干して、グラスをテーブルに置き、ベッドに向かう。
「ほら、もう寝るぞ」
ライの手からグラスを奪い、抱え込むようにして押し倒す。
「ふあ……」
慌てたように声を上げる唇は、さっきのワインで濡れてしっとり潤んでる。
誘われるまま口接け、その口元や首筋を舐め上げると、そこはこぼれたワインのせいか、ほんのりと甘い味がした。
翌朝は、いつも通り侍従によって起こされた。
カーテンを開けられ、窓から差し込む太陽の眩しさに、強引に覚醒させられる。
同時に、腕の中でライが身じろぎして、その温もりにハッとした。
「んう……」
うめき声を上げ、眩しそうに目元をこするライ。
抱き合ってキスして、そのまま寝てしまったらしい。だがそれより、夜中に1度も起きた覚えがない事の方が重要だった。
寝込んで気付かなかったのか? それとも、ライが叫ばなかった?
……ワインのせいか?
「んん……殿下?」
ベッドの上で目を覚まし、ライがもぞもぞと起き上がる。
柔らかな麦穂色の髪は、寝癖でもさもさで、なんだかひどくあどけない。
「おはよう、よく眠れたか?」
髪をわしゃわしゃかき混ぜながら訊くと、「はい」と素直にうなずかれる。
いつもいつも本音で喋ってるのかどうか、無理してるのかもよく分からない彼だけど、今回ばかりは本当だと分かった。
にへっと無防備な笑みを見せられて、また胸がドキッとした。
隣室に控えていた侍従らに確認したが、どうやらライはやはり、昨日夜中に叫んでいなかったらしい。
砦にいる間も、凱旋パレードまでの道中も、王宮に着いてからも……ずっと毎晩続いていたという絶叫が、どうして昨晩はなかったんだろう?
やはりワインのせい? それとも案外、人肌の温もりのせいか?
宮廷医に訊いても、その辺はよく分からないらしい。
「ご安心されたのでは」
曖昧にそう言われ、「安心か……」と考えを巡らせる。
どこに安心するような要素があったのか、オレにはよく分からない。ただ、不安になられるより、安心された方が当然嬉しい。
今朝起きた時の、腕の中の温もりを思い出し、ふっと頬が緩む。執務中も、ふとした拍子に笑えてきて仕方なかった。
一方のライは、執務室の隅に机を与えられて勉強中だ。
よく寝て体が軽いから、と素振りをしようとしていたから、引っ掴まえて連れて来た。
「でもオレ、体がなまると……っ」
昨日と同じ様なことを言って庭に出ようとしていたが、宮廷医からは無理させないよう言われているし、素振りだろうが打ち合いだろうが、剣の稽古は有り得ない。
まったく、昨日の今日でどうして凝りないんだろう?
食欲はかなり戻ったようだが、まだまだ細い。なのに、なぜそこまでして稽古しようとするんだろう?
本当に呆れる。やはり目が離せない。けど、昨日と違って顔色もいいから、不安でモヤッとすることもない。
まだ昏い目で窓の外を眺め、ぼうっとしてる時はあるものの、「ライ」と名前を呼べば、大きな目をオレに向ける。
「午後からは、少しだけ散歩に行くか」
オレの誘いにライはこくりとうなずいて、「はい」と小さく微笑んだ。
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