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プロローグ④
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────あれから数十分。
あの後榮倉さんが用を足しにトイレ行った時はもう終わりかと思ったが、特に何事もなく出てきたのでどうやら俺の不祥事はバレなかったようだった。
それから暫く談笑していたら、ふいに俺の鼻を甘い匂いがくすぐってきた。
「甘い匂いがする」
「あ、ああ……そろそろ、焼けた頃、かな…」
「焼けた?」
なんのことか分かってないキョト顔の俺をくすりと笑いながら榮倉さんはキッチンに向かって行った。
そして待つこと数分。
「お待たせ」
「………うおお…!」
コトリと皿の置く音がしたかと思うと、なんと目の前にそれはそれは美味そうなチョコブラウニーが。
「ラムレーズンの…代わりに、くるみを…入れたんだけど……美味しいと、お、思う……」
「え゛、これ榮倉さんの手作りなの」
「あ、うん……一応」
まじか。この人料理も作れるし菓子も作れんの?
もはや良妻レベルだよこれ。嫁になってほしいくらいにスキルが高すぎる。
「あ、焼きたてのうちに……召し上がれ」
「お、おお…いただきます……」
榮倉さんに促されるままに俺はほこほこと湯気を纏っているチョコブラウニーをフォークでさいて、口へと運んだ。
……うっっっっま。
口に入れた瞬間、じんわりと甘さが広がった。
程よくしっとりと焼き上がったチョコブラウニーは、噛む度に少しもちもちした食感の他にくるみのコリコリした感触も楽しめる。
甘さは控えめで、一口、また一口と食べるのをやめられない。
「お…美味しい?」
「……めちゃくちゃ美味しいです」
「ああ……良かった」
そういうと榮倉さんは俺の頭をふわふわと撫でる。
びっくりしたけど全然嫌な気はしない。…イブキさんに似てるっていうのもある、けど。
榮倉さんはまるで息子を愛でるような視線を向け、俺の頭を撫でている。…その瞳ですらそっくりだ。
「…榊君は、将来とか……どうする、の?」
「んぇ?」
突然話し掛けられて素っ頓狂な声が出る。
「将来ですか?」
「う、うん……榊君が、大学卒業したら…どこにいくのか、気になって……あ、ご、ごめんね…迷惑だったら…」
「ああ、いや…迷惑じゃないよ。将来かぁ…。俺、この歳にもなって将来のこと全く決まってないんですよ。」
「え……、そう、なの?」
榮倉さんがびっくりした顔で俺を見る。当然だよなー…。このままじゃフリーターかプー太郎まっしぐらだもん。
「いやぁ恥ずかしいな。そうなんですよ、ぜんっぜん決まってなくて。…普通にサラリーマンとして働いてもつまんないし、自営業するにしても店買う金無いしそもそもなんの店開くんだよって感じで却下で。留学しようって思ったんですけど行くあてもないのになにほざいてんだって先生に怒られたりして…」
「今は、まだ……答えが、見つかってないんだ…ね……」
「そんな感じです……」
暫く沈黙が続く。
部屋中にチョコブラウニーの臭いが充満した時、榮倉さんの口が小さく動いた。
「………でも、大人達に騙されちゃいけないよ。…僕みたいな末路をたどるからね……。」
「……?それは、どういう?」
「……っ!あ、ああ、いや、ううん…な、なななんでも、ないよ……ほ、ほら、お菓子食べな……!」
「え、ちょ何ですか急に口に入れないでくださモゴゴゴゴゴゴ」
いきなり滑らかに喋ったかと思えば榮倉さんは顔を真っ赤にして俺の口にチョコブラウニーを突っ込んできた。…いや、美味しいからいいけどさ。
『僕みたいな末路をたどる』……その後も妙にその言葉が頭に残って離れなかった。
もしかしたら榮倉さんは過去に壮絶な人生を歩んできたのかもしれない。思えばこの家気になるとこだらけだし。
部屋の隅っこに置かれたベビーグッズ、あちこちに飾られている変なスライムや石鹸、ソファの上の大量の布やらなんやら。何に使うか全くわからない。
「……あ、寝る時は、言って、ね……その…布団、敷くから」
もにょもにょと手を触りながら榮倉さんは言う。
……まぁ今日出会ったばかりの相手のだから知らないことの方が多いもんな。干渉はしないが。
とりあえずいい人なのは分かるから大丈夫。
うしっ!明日早いから、寝させてもらうか!もう考えるのやめだやめ!
「じゃあ寝させてもらいますわ。あ、自分で敷くんで場所教えてもらってもいいですか?」
「え、ええあわわ大丈夫だよ…僕がやるよ……」
「大丈夫ですよ!榮倉さん仕事でお疲れっしょ?こんな遅くまで話付き合ってもらって悪いし先寝てください!」
「うう、……そ、そんなぁ…いいの、に……」
慌てる榮倉さんを尻目に俺は自分で布団を敷いた。
その間も榮倉さんはあわあわしてた。ちょっと可愛いと思ってしまった。
暫くあわあわしてた榮倉さんも寝る準備をし、おやすみと優しい声で言い、俺の部屋の電気を消す。
そしてとことこと自室へ戻って行った。
俺はというと、布団に入ってから全く寝付けなかった。
俺の好きなAV男優に似てる榮倉さん。あの瞳はイブキさんと同じだった。もしかして、本人説……?
いーーーやいやいやいや。んな偶然あるわけなかろうに。少女漫画じゃあるまいし。…とか言ってる奴に限って本物だったってのが多いんだよな。
………確かめて、みる?
そう思った瞬間胸の鼓動が急加速した。
いや、それって、寝込みを、、、
でももしかしたらイブキさんなのかもしれないんだぞ?こんなチャンス、二度と訪れないかもしれない。
でも間違ってたら?完全にゲイ扱いだぞ?
「……当たって、砕けろ…」
ポツリと呟く。
そ、そそうだよな。男は玉砕してなんぼって誰かが言ってたしな。……いいよな。うん。上体を起こし、両手で頬をパンパンと叩く。
大丈夫だ榊碧。お前はやればデキる男だろ(適当)。
不安定な決意を抱くと、俺は完全に起き上がり、榮倉さんの寝室へと足を運んだ。
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