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応接室で卒業生たちに説明を終えた後、さっそく体育館で説明会が始まる。
学生時代と比べるとちゃんと成長している生徒たちの姿に、どの教員も皆満足げな表情を浮かべている。
一番心配していた高瀬もやはり器用な奴で、突発的な生徒からの質問にも笑いを交えて問題なく答えていた。
説明会はつつがなく終わり、体育館から教室へ戻る生徒を見送る。
この後卒業生たちには気持ち程度だがお礼の品を渡す流れになっていて、わざわざ協力してくれた卒業生への感謝の気持ちだ。
腕組みしながら教室へ戻る生徒の群れを眺めていると、不意に真島に声を掛けられた。
「あの、紺野先生いいですか?」
何かと思い話を聞いてみれば、少し校内を見て帰りたいらしい。
真島であれば変な事をする心配もないだろうし、許可してやると嬉しそうに高瀬を引っ張って体育館を出ていった。
全く接点のなさそうな二人だが、どうやら仲が良いらしい。
「紺野センセーっ、真島先輩帰っちゃいました!?高瀬先輩は!?」
体育館から流れる生徒に紛れて、七海が俺に声を掛けてくる。
どうやら高瀬だけじゃなくコイツは真島とも面識があるらしい。
七海の交友関係はどれほど広いんだ。
「少し校内を見たいと言っていた。帰ってはいないがお前は授業があるだろう。早く教室へ戻れ」
淡々とそう答えると、七海が俺の顔を覗き込んでくる。
「…あれ、なーんでご機嫌斜めさんなんですか?ちゃんと知りたいから教えてくーださい」
どことなく甘やかすような口調で言われたが、なぜ俺が生徒にそんな口の聞き方をされなければならない。
それにコイツは俺じゃなくても誰でも簡単に好きになれる奴で、高瀬に言っていた事を考えたらコイツが軽い奴なのは一目瞭然だ。
「うるさい。教師に二度とそんな口を聞くな」
ぴしゃりと言い放ったら、七海は驚いたように目を見開く。
「…いきなりどうしたんすか。なんでそんな最初の頃みたいな――」
「七海、紺野先生になんの用だ」
不意に神谷が後ろから声を掛けてきた。
体育館入口で俺に絡んでる七海が目に余ったんだろう。
いつもならコイツと二人で話しているところなど見られたくなかったが、落ち着いて考えればそれもおかしな話だ。
生徒と話すことに後ろめたさなんていらないはずだ。
俺は今まで何をそんなに惑わされていたんだろう。
「バスケ部は口の聞き方も知らないのか。教師に舐めた口を聞くなとしっかり教えておけ」
「すみませんでした。七海、早く教室に戻りなさい」
「ちょ、みー…」
俺の名前を呼ぼうとした七海を鋭く睨む。
そもそもあんなフザけた呼び方だってなぜ俺は許していた。
なぜだか一気に七海の事が許せなくなるような、無性に腹立たしい気持ちがこみ上げてくる。
自分でも驚くほど苛立っていて、今は七海の顔を見たくなかった。
生徒が全て体育館から出たことを確認してから簡単に片付けを終え、職員室へ戻るため廊下を歩く。
「…大丈夫ですか?」
隣で歩調を合わせてきた神谷が、不意に俺の顔を覗き込んできた。
何も言わなくたって勝手に人の顔でいつも判断してくるくせに、今日に限っては何をわざわざ俺に聞いてきている。
「大丈夫とはなんだ。別に何も心配事はない」
淡々とそう言うと、神谷はどこか困ったように首を擦った。
確かに多少イラついているかもしれないが、そんなのはいつものことで心配されるようなことではない。
それに自分でもよく分からない。
七海のことでイラついているのは今に始まったことじゃないし、そんなのはアイツに会ってからもうずっとだ。
確かに高瀬とのことは少し驚いたが、それでもアイツが複数の奴と付き合ってきたことは分かっていたことだし、手慣れた態度から軽い奴だということも知っていたはずだ。
今更そんな事をグダグダ考えて苛つく必要はどこにもない。
いやそもそも俺はアイツの恋人ではなく教師であるのだから、そんなことを気にしてどうする。
どう考えても俺はアイツを贔屓目に見過ぎているし、これ以上余計な事を考えるべきではない。
そう分かっているのに、神谷の言う通りさっきからずっと気分が優れない。
酷く優れなくて、今までこんな気持ちになったことなど一度もなかった。
「神谷」
「はい、なんでしょう」
隣を歩く神谷の声は、どこかいつもより優しく聞こえた。
温和な声音は今の俺にはなんだか居心地が悪い。
「…俺は今どんな顔をしている」
自分より俺を分かっている自称良心的ストーカーに聞くと、神谷は数度瞬きをする。
それからやんわりと微笑んで足を止めた。
同じように足を止めて隣を見上げると、伸びてきた指先に頬を撫でられる。
なぜだか抵抗する気が起きなかった。
「とても落ち込んでいます。それはもう驚くほどに。…大丈夫です。あなたは何も間違ってはいませんよ。ですから早く元気を出しましょうね」
「…そうか」
宥めるように髪を撫でられたが、それすらも払う気にはならなかった。
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