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----side七海『七海と神谷先生2』
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「ななみーん、海行こーよ。海っ」
「おーっ、いいね。俺も海行きてええ」
「だから行こーよって。女友達も結構来るし、ななみん来たらみんな喜ぶんだけど」
いつもだったら2秒で行くって返事してるけど、さすがに今はダメだ。
夏休みは受験勉強に当てたいし、勉強してない時間はみーちゃんとイチャイチャしたい。
むしろみーちゃんと海行きたい。絶対エロい。
「彼女とイチャイチャしたいからごめんって言っといて」
「ええーっ、ななみん彼女出来たの!?」
「んー、彼女っつーか…どう思う?お手て繋ぐところから始めましょーって言われたんだけどそれ付き合ってんの?」
「うそー。超純情じゃん。どこのお嬢様?」
そこの後ろにいるお姫様。
ちょうど授業が始まるところで教室前にいた俺と女友達の話を聞いていたらしく、みーちゃんが真っ青な顔でピキピキと青筋を立てていた。
「お前ら無駄話している暇があったら勉強しろっ。何が海だっ。受験生の夏休みを遊んで過ごそうとかいう甘い考えは今日のテストで合格点取ってからにしろっ」
「わーっ、ゴメンナサイっ」
女友達が慌てたように自分のクラスに逃げ帰っていく。
今日もみーちゃんは絶好調にゴキゲンナナ眼鏡だ。
去っていった女生徒を苛々と睨んでから、そのまま視線を俺へと向ける。
「大丈夫です。行きませんよ?」
ニッコリと笑顔で返したら、どこか赤い顔でむすっとしたように視線を逸らされた。
ダメだ、可愛い。
みーちゃんと夏休み中に距離は確実に近くなったと思う。
だけどやっぱり『好き』って言葉はまだ貰えない。
たぶん俺を好きでいてくれるとは思うんだけど、いまいち確信が持てないのはみーちゃんの態度だ。
めちゃくちゃ俺が大好きですって分かりやすい顔をしてくれる時と、驚くほど無視される時がある。
「みーちゃん、みーちゃん」
「……」
特に数学に集中していると俺なんか全く無視だ。
うるさい、とか邪魔をするな、とか言ってくれるならまだしも、本気で俺のことなんか見えてない。
みーちゃんの書斎に入って驚いたけど、数学に関する賞状とかメダルとかがたくさんあった。
すごい人なんだと実感すると同時に、これほどみーちゃんを夢中にさせるものを俺も知ってみたいという興味が湧く。
少なくとも今の所みーちゃんの中で俺は数学以下で、どう考えても一番じゃないのは分かる。
そんなわけでみーちゃんの家に行ったことをカミヤンに自慢するついでに、みーちゃんの昔話を聞いてみることにした。
「紺野先生が数学しか見えてないのは大学の頃からずっとだ。あの頃は眼鏡を掛けていなかったし、頭も良かったから大学内でも人気があったんだ」
「へー。みーちゃんとカミヤンってどこの大学なんすか?」
夏期講習を終えた渡り廊下で、のんびりカミヤンと立ち話をする。
カミヤンはみーちゃんの話をすると絶対ノリノリで食いついてくる。
何気なく聞いた質問だったけど、返ってきた言葉は超一流大学で驚いた。
真島先輩も通ってる所だ。
「なぜ高校教師になってしまったのか正直疑問だった。皆将来は数学者もしくは大学教授になるのではと思っていたからな。やはり天才の考えていることは凡人には分からない」
「天才…か」
確かにあの集中力を見たら普通とは違うってのは分かる。
うーん、と目を細めて考えていると、カミヤンにクスリと笑われた。
「どうした。自分の力不足を痛感したか?諦めるならさっさと諦めてくれたほうがいいんだがな」
「ありえませんよ。カミヤンこそさっさと諦めて下さいよ。つーか自慢してるんだからもっと悔しがって下さいっ」
「ふむ、俺はもっと前から家の場所を知っているしなんなら前に住んでた家も実家の場所も知っている」
「えー!すげえ、負けたっ」
くっそ、と頭抱えて悔しがっていたら、不意に落ちてきた手にくしゃくしゃと髪をかき混ぜられた。
クスクスといつもの大人びた笑いが落ちてくる。
「…そういうところなんだろうな。お前を憎めないのは」
「えっ?」
「紺野先生がお前を突き放せないのが分かる気がする。…お前みたいな性格だったら、少しは俺もあの人の力になれたんだろうか」
カミヤンが珍しく困ったような表情をしたから、思わず笑ってしまった。
この人は全然分かってない。
カミヤンは俺と違ってみーちゃんと同じ立場でいられる事。
それにいくらあーちゃんとの話があったとしても、みーちゃんはなんとも思わない人をわざわざお祭りに誘ったりするような人じゃない。
あの人は好き嫌いじゃなくて、興味の有る無しがめちゃくちゃハッキリしてる人だ。
絶対教えてやらないけど、俺からしたらカミヤンは羨ましいほどみーちゃんの力になってる。
「俺なんかみーちゃんの人生の中で一番断りの言葉言わせた自信ありますよ。嫌いって言われたこともありますし、めちゃくちゃ突き放されまくってます。…でも、諦めなかっただけです」
ニシシと笑顔でカミヤンに言う。
まだ完全に受け入れてもらったわけじゃないけど、やっとここ最近少し受け入れてくれるようになった。
それでもやっぱりまだまだ抵抗は多くて、本当は俺だけしか見えなくなるくらいドロドロに堕ちてくれたらいいんだけど。
俺の言葉にカミヤンは少し驚いてから、ふ、と女子に大人気の顔でやわらかく笑った。
「…そうか。好かれることより嫌われないことを望んでしまった俺とお前の差は、最初から明確だったんだな」
カミヤンはお手上げとばかりに両手を上げた。
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