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ディーン、と大きいギターの音が響く。
同時にドラムを叩く音、バタバタと機材を運ぶ音。
どうやら次の演目はバンド演奏らしく、一旦締まった段幕の裏で忙しなく音調整しているのが聞こえる。
静かなところを探してここにきたと言うのに、また賑やかになるのかと思えばヤレヤレと息を吐き出す。
そろそろ見回りに戻るかと思った所で、ドッと会場内に人が入り込んできた。
先程までほとんど空席だったのに、あっという間に人が埋まっていく。
男女ともに皆笑顔でキラキラと期待したように瞳を輝かせている。
思わず呆気ににとられてしまったがふと気づく。
この覚えのある賑やかさは、まさか。
そう思い至った時、フッと会場が暗くなりステージの幕が上がる。
煌々と照らされたステージ上、左からベース、キーボード、ドラム、ギター。
そしてその中心、ボーカルの位置にいるのは。
七海だった。
カッカッとドラムの生徒がスティックで音を取り、いきなり演奏が始まる。
一体アイツはどこまで色んな物に参加しているんだ。
そしてこんなにも客を引き連れてきて、一体何を目指している。
「――え」
だが軽快なリズムと共に歌いだした七海の歌声は思いの外上手かった。
あいつのことだから友人も多いし、きっとカラオケも相当行き慣れているんだろう。
俺には分からない今時の曲なんだろうが、ノリの良いバンド演奏に乗せて歌う七海の声に思わず聞き入ってしまう。
あっという間に席に座っていた生徒が立ち上がり、ステージ前へと詰め寄っていく。
女生徒は黄色い声をあげ、男生徒は悪ふざけも入っているようなノリで騒ぎ立てる。
一体なんのお祭り騒ぎだと言わんばかりの盛り上がりに、どんどん人も増えていく。
七海はギター担当の生徒やベース担当の生徒と共に、パフォーマンスをしながら楽しげに歌っていた。
曲がサビに入れば呼応するようにドカッと館内も盛り上がる。
さっきまで閑散としていたはずの体育館はあっという間に塗り替えられ、今や熱気で満ち溢れている。
あっという間に観衆を虜にして歌うその姿を、ただただ呆然と見つめてしまった。
アイツは本当にすごい奴だ。
軽快なバンド演奏に引き上げられるように、自分の心音もドキドキと速くなっていく。
音楽なんて何の興味もなかったはずだが、アイツのせいでまた一つ新しいものに高揚感を覚えてしまう。
それに七海の表情はどこまでも無邪気に楽しそうで、あんな顔を見せられたらこっちまでつられて表情が緩む。
さっきまで不安で堪らなかった気持ちが、アイツの顔を見ていると自然に溶け出していく。
速い心音と共に七海の姿を目で追いかけていたが、サビが終わるその瞬間、不意に七海がこちらを向いた。
観客席など真っ暗でよく見えないはずだし、それにここは立入禁止の二階だ。
俺が来ていることは知らないはずだが、その視線がしっかりと俺を目に留める。
絡んだ視線に驚いたのも束の間、すっと真っ直ぐに指をさされた。
その表情がニッと不敵に微笑んで、まるで挑発されているように口端をあげられる。
それは情事中に人を煽るときの表情とそっくりで、バクリと大きく心臓が跳ね上がる。
観客も「えっ?」と指が向けられた方を振り向き、全員の視線がこちらへ向く。
ざわっとどよめく生徒たち。
「えー、ななみんやば。度胸ありすぎっ」
「イラ眼鏡に喧嘩売るとかちょーかっこいいんだけどっ」
「今の完全に煽ってただろ」
どうやら生徒は別の方向に勘違いしてくれたらしい。
パフォーマンスの一部だと思ってくれたらしいが、その実を知る俺は七海の行動にひたすら身体が昂ぶってしまう。
カーっと顔に熱が上がる。
俺に気付いてくれたのか。
引退試合のときに俺を気づけなかったことを拗ねていたが、今度はちゃんと見つけてくれた。
再び観客を虜にさせてはしゃぐように歌う姿にどうしようもなく心が惹かれてしまう。
――好きだ。
余計な事を思う間もなく、気持ちが落ちてくる。
七海が好きだ。
好きで好きで、どうしようもなく目が離せない。
魅せられてしまったのは観客だけでなく俺も同じで、七海の楽しそうな表情を完全にショートした頭で見つめていた。
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