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気まずい。
非常に気まずすぎる。
七海は俺が達したことが分かると、ゆるりと髪を撫でてから俺を離した。
どうやら最後までする気はないらしい。
自分だけ満足してしまったことも申し訳ないが、それより何より最初に自慰行為を見られたことの羞恥心がデカすぎる。
後処理をされながらあまりの気まずさに視線を彷徨わせて黙りこくっていたら、七海がキョトンとした様子で小首を傾げた。
「あれ、まだ気にしてるんですか?別に俺もみーちゃんで毎日二回抜いてるんで同じですよ」
「二回もっ!?」
唐突なカミングアウトに目を白黒させる。
いや待て。ツッコミどころはそこではなく俺でしているというところか。
それともさすがにそれは同じではないと言うべきだったか。
「高校生の性欲バカにしないで下さいよ。フツーっすよそれくらい」
「…そ、それだけ性欲あるくせに最後までしないのか」
「してほしかったですか?」
そう返されてうっ、と言葉に詰まる。
再び視線を彷徨わせた後、おずおずと七海を見上げた。
「…お、俺だけでお前が満足していないのが嫌だ」
どこか投げやりにそう言ったら、ふっと七海が息を漏らす。
くしゃくしゃと俺の髪を撫でながら七海が嬉しそうに笑顔を作った。
「ぶっちゃけ今世紀最大に我慢してますけど、これ以上したら絶対止まらなくなりそうなんで」
「…いつも気にせずしてるくせに今更何を言ってる」
「退院したらさせてくださいね」
どうやら俺の身体を心配してくれているらしい。
もうすっかり身体は元気だが、それでも七海なりに俺のことを気遣ってくれているんだろう。
考えてみれば性欲バカの七海がここまで我慢していることなど奇跡に等しい。
不意にコンコンと病室の扉がノックされ、どうやら看護師が様子を見に来たらしい。
慌ててすぐに帰すからと告げて七海に帰れと促す。
――が。
「おい、ちょっと待て」
「え、なんすか」
「その手に持ったジャージを置いてけ」
「わお、みーちゃん積極的ですね。確かにオナるのにオカズは必須――」
「違うっ、自分が汚したものをお前に洗濯させられるかっ!」
さすがにそれだけは後ろめたい。
その後俺の胃潰瘍は無事に治り、なぜか心底安堵したような表情の医者に見送られて退院した。
結局入院中七海(と教頭)は毎日来ていた。
おすすめだと言っていた漫画はちゃんと読んだし、感想は伝えるべきだろうと読書感想文にして渡してやったのに、一言面白かったですか?と聞かれて頷いたらそれで満足していた。
久しぶりに職員室に顔を出して、他の教師に挨拶回りをしつつ神谷の元へ行く。
「すまなかった。俺がいない間クラスの仕事を任せきりだっただろう」
「いえいえ、あなたの姿を毎日拝めたのでなんてことはありませんよ」
「…?そうか」
神谷は毎日来ていたわけではないがどういう意味だろう。
言葉の綾かと気にせず溜まりに溜まった仕事に手を付ける。
気付けばもう10月が終わろうとしていた。
俺が高校教師を続けるのもあと5ヶ月なのかと思うと、残りの日々は気を引き締めねばと思う。
「うわ、キレ眼鏡帰ってきてんじゃん。出張行ってたんじゃないの?」
「あーあ、代理の先生優しかったのにー」
「おいそこ、私語を慎め」
眼鏡をクイと引き上げてギロリと睨む。
優しい教員がいいなど、受験生の分際で何を腑抜けたことを言っている。
しばらく見ないうちにどこか弛んでいる生徒を再び叱咤しながら授業をする。
黒板に数式を書き込み教科書片手に解説をしながら、ちらりと窓際の席、前から三番目のその場所へと視線を向ける。
思わずガホッと咳き込んだ。
「…え、なに。病み眼鏡?」
「ありえないっしょ。むせただけじゃないの」
「失礼した」
慌てて教科書へと視線を戻す。
七海のクラスでの授業はかなり久々だ。
きっと変わらずいつもの授業態度の良い爛々とした瞳がそこにあるのだろうと視線を向けてみたが、予想外に熱を含んだ瞳が俺を凝視していて戸惑った。
あの目は明らかに欲情されている。
俺がいると勉強に集中出来ないとか言っていたが、こういう事か。
というか授業にまで支障が出ているのはかなり大問題じゃないのか。
辺にドギマギしながら授業を終えて、昼休みとなる。
七海の弁当は作ってきているし、ある程度覚悟をしながら数学準備室へ向かう。
昼休みもやらなければならない仕事はあるのだが、どう考えても無事に数学準備室から帰ってこられる気がしない。
「いつも有難うございます」
たどり着いた数学準備室で、七海に作ってきた弁当を手渡す。
あの欲情しきった目を見てしまったがために、なんとなく顔が上げられない。
「…あ、ええと。入院していた分仕事が溜まっているから、一緒に食事は出来なくて…」
なぜこんな言い訳じみた言い方になってしまったんだ。
恐る恐るそう言ってから顔を上げる。
「分かってます。俺も勉強しないとやばいんで気にしないで下さい」
気にするなと言っているくせにその目はどう見ても据わっている。
なんなら若干息も上がっているんだが。
「早く行って下さい」
「あ…いやでもお前が…」
退院したらさせてほしいと言っていたし、きっと期待させてしまってたんだろう。
そう思えば仕事はいくら残業になってもいいし、少しくらい七海を甘やかしてやりたい気持ちになる。
だが七海はどこか苦しそうに一度目を瞑ってから、俺の肩を押した。
「間違えたくないんです。早く行って」
そう言って七海は俺の身体を押すと、数学準備室から閉め出した。
この間も言っていたが間違えたくないとはなんだ。
ピシャリと締められた扉を唖然と見つめてしまう。
とりあえずそこはお前の部屋じゃないんだが。
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