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そこから数日は忙しかったが、なんとか落ち着いてきて久しぶりに七海と昼食を食べる。
今日はもう絶対にされるのではとドキドキしていたが、七海は勉強についての話題を俺に振ってきていて驚くほど生徒らしかった。いや生徒なんだが。
「模試の結果がこっちはA判定なんですけど、一番行きたいここはC判定なんですよね。やっぱレベル高いかなー」
「今C判定なら勉強次第ではまだ間に合う可能性はある。お前は伸びがいいから志望校の入試問題の傾向に合わせて――」
当たり前のように教師としての言葉を掛けてやりながら、七海の模試の結果に視線を落とす。
正直成績の伸びしろにかなり驚いている。
4月の七海の成績は特進科の割にはあまりよくなかったが、部活を引退してからはものすごい成長を遂げている。
夏休みを期に更に力を付けてきていて、俺の心配する余地などないほどしっかり勉強しているらしい。
特に数学に関しては本当によくやっているらしく、もしかしたら本気でいつか俺と対等に話をしてくれるのではないかと淡い期待を抱いているほどだ。
「…お前はすごいな」
「なんですか、いきなり」
模試の結果から顔を上げて、勢いよく弁当を掻き込んでいる七海を見つめる。
生徒の成長とは凄まじい。
俺が馬鹿な心配をしている間にも、どんどん成長していく。
気がついたらこのまま成長していく七海に置いていかれるんじゃないかという不安すら覚える。
「みーちゃんのおかげですよ。みーちゃんが俺のやる気ですから」
嬉しそうにそう言われて、胸がギュッと締め付けられる。
なぜ俺なんかが七海のやる気になれるんだろう。
屈託なく向けられる笑顔がくすぐったい。
思わず表情を緩ませて、その唇に手を伸ばす。
「…そうか。お前のやる気になれて嬉しい」
自然と出た言葉と共に、唇の端についていたご飯粒を取ってやる。
そのまま何気なく自分の口へと運んだ。
俺が七海のやる気になれるのなら、全力で応援したい。
弁当もこんなに慌てて食べるということはお腹が空いているんだろうし、もう少し量を増やしてやるべきだろうか。
それとも特進科は授業時間も長いし別におにぎりを用意してやろうか。
だがあまり腹をいっぱいにして眠気を呼んでしまってもいけない。
「…ほんとヤる気ださせるの上手いっすよね。必死に考えないようにしてるのに」
「え?」
不意に伸びてきた指先が俺の唇へと伸びる。
自分もついていたかと目を瞬かせたが、その親指は意図したように唇をなぞった。
同時に七海の目が熱を帯びて、ドクリと心臓が高鳴る。
まるでいきなりスイッチが切り替わったみたいだ。
「な、なんでいきなり…っ」
「今のはみーちゃんが悪いです」
ぐいと親指が唇を割って口内に入り込んでくる。
俺の舌を捉え感触を確かめるように触れられる。
食い入るように見つめられる視線が、ハッキリと欲情されていることを示している。
「…っは」
指先で好き勝手に口内を弄られ、敏感な箇所を撫でられる。
思わず甘く漏れた息に、七海がハッとしたように目を見開いた。
勢いよく指を引き抜いて、ガタリと席を立ちあがる。
何事かと見上げると、何か堪えるように上を向いて自分の額に手を当てている。
数秒後、七海は口を開いた。
「…走ってきます」
「は?」
「ちょっとグラウンド走ってきます。弁当ありがとうございました」
そう言って七海は勢いよく模試を鞄に突っ込むと、俺の方を見ずに数学準備室を出ていった。
七海が出ていった扉をポカンと見つめてしまう。
どう見ても明らかに性欲を我慢した行動というのは分かる。
だが勉強するため、ではなく運動してくるとはどういうことだ。
アイツのことだからそんな時間があるなら、さっさと俺に手を出してきそうなものだが。
ただ我慢をしているにしては少し違うような行動に、疑問を持ってしまう。
窓からグラウンドを見下ろすと宣言通りトラックを走っていて、周りのギャラリーが楽しそうに何の罰ゲームかとツッコんでいた。
「ふむ、恐らく紺野先生が倒れたことを気にしているのでしょう」
「――え?」
神谷の言葉でそうなのだろうかと考えてみる。
俺が倒れたこととアイツが変な形で我慢をすることにどんな繋がりがあるんだ。
「紺野先生が倒れた時の引き金になってしまったのが俺に見られたことでしょう。それを目の当たりにして、七海なりに思う所があったんじゃないでしょうか」
「…なるほど」
神谷の言葉に納得してしまう。
給湯室でコーヒーを手渡されながら神谷の言葉に耳を傾けていたが、いやちょっと待て。
俺は別にコイツに何も話していない。
ただコーヒーを淹れようと給湯室に足を運んで、たまたまコイツが先にいただけだ。
「おい、当然のように人の心を読むのはやめろ」
「おや、当たりでしたか」
「何がおや、だ。お前の言葉が外れていたことなど一度もない」
「褒め言葉でしょうか。ありがとうございます」
「褒めてなどいない」
とはいえある意味賞賛に値する特技ではあるが、俺がそれに感心してしまってはコイツのストーカー行為を咎める者がいなくなる。
おまけに最近やたらジャージを上に羽織っている気がするのは何故だ。
バスケ部顧問だからであって深い意味がないと思いたい。
「そういえばお前があの時珍しく数学準備室へ来たのはなぜだ。何か用があったんだろう」
「ああ…忙しくなる前に少し相談事があったのですが、あんなことがありましたので。お気になさらないで下さい」
「なんだ、珍しいな。悩みでもあるのか」
聞き返すと神谷はどこか言い淀んだように口を閉ざした。
初めて見る態度に驚く。
いつも何事にも動じることのない奴だから、余程のことなのではないか。
神谷には休暇中に負担を掛けっぱなしだったし、ここは職場の先輩として話を聞いてやるべきだろう。
「分かった。言いづらいことなら飲みにでも行くか」
「いえいえ、お気になさら――へぁっ!?い、いいんですか?」
二度見しながら物凄く驚いた反応をされたが、悩みを聞くならばそれくらいの配慮は普通だろう。
それに酒の席ならば多少言いやすいはずだ。
「構わない。ただし俺もお前も忙しいだろう。あまり大した場所には行けないがな」
「ご安心を。俺が最高の場所へとご案内致します。夜景の楽しめるクルージングディナーなど如何でしょうか」
「人の話を聞いていたのか。駅前の居酒屋でいいな」
「最高です」
ジトリと神谷に目を細めるが、当人ははしゃいだ様子で「予約してきますね」と浮かれていった。
何か余計な気を回したような気がしてならない。
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