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俺はなんて早まった勘違いをしてしまったんだ。
全身から火が出そうな羞恥心を感じたまま唖然としていると、七海に両頬を包まれた。
「…もー、なんですか。可愛すぎです。俺の事大好きですか」
「いや、あ…それは…っ」
しどろもどろになってしまう。
さすがに言い訳も苦しい。
「みーちゃんは鈍感さんなんで、ちゃんと言葉にしないと分かってくれないと思ったんです」
「え?な、何を…」
「昨日の話ですよ。俺が恋人だったら怒るの分かってくれますか?」
両頬はまだ七海の手に包まれたままで、回らない頭で必死に言葉の意味を考える。
言われてみれば、確かに恋人なら怒ってもおかしくないかもしれない。
自分の恋人に好意を寄せている奴と二人で飲みに行くなど、逆の立場で考えたら確かに嫌だ。
あっさりと納得してしまったが、いつのまにか昨日の話と繋がっていることに気づく。
「…す、すまなかった。神谷とのことはもう少し配慮するべきだった」
「いえ、もう今ので吹き飛んだんでカミヤンなんかどうでもいいです。それより俺と付き合ってくれるってことでいいんですよね」
「いや、で、でもそれは――」
「ダメですか?俺の事好きですよね?早く好きって言って下さい」
ここぞとばかりにグイグイ押してくる七海に頭がパンクしそうになる。
おまけに両頬を掴まれているため視線を逸らすことも出来ない。
完全に動揺したままパクパクと口を開閉させて固まっていると、七海はもどかしそうに俺の手を引いた。
「分かりました。なら早く帰りましょう。今日は絶対みーちゃんに好きって言わせます」
「べ、勉強をしろっ」
「息抜きは必要です」
ピシャリと言われた。
帰宅したら電気もつけず玄関先で抱きしめられた。
かき抱くように力強く抱きしめられて、息が詰まる。
「ここ最近俺すげー我慢してたんです。知ってますか?」
静かな室内に七海の声が響く。
相手の体温を胸の中で感じながら、慌てて顔を上向かせる。
「…し、知って――」
る、と最後まで言えなかった。
急くように唇を重ねられて、呼吸が止まる。
すぐに唇を割って入ってきた舌が口内へと侵入し、容赦なく俺の舌を絡め取る。
好きな人とするキスはどうしてこんなに気持ちがいいんだろう。
じゅっと音を立てて吸い上げられると、堪らなく力が抜けてしまう。
酸欠のせいなのか頭がくらくらとして、夢心地のような感覚にまで陥る。
「…んん…っ」
鼻から甘い声が抜けていく。
角度を変えて何度も口付けられ、耐えきれずずるりと膝が落ちた。
「――っわ」
このまま床に座り込んでしまうかと思ったが、不意に訪れた浮遊感に目を丸くする。
七海が俺を横抱きにして持ち上げていた。
所謂お姫様抱っこというやつだ。
「ちょ…っ、は、離せっ」
「はいはい、暴れないで下さい。ベッドいきましょーね」
まるで子供を相手にしているかのような口振りだ。
自分で歩けると足をバタつかせたが、七海は俺をしっかりと抱えたまま器用に寝室の扉を開ける。
ベッドに俺の体を落として自分も乗り上げてきたから、慌てて上体を起こした。
「ま、待ってくれ。まだ…っ」
「まだ、何ですか?俺と付き合うにはまだ気持ちが足りませんか?」
「そ…そうじゃない。そうじゃなくて…俺は――」
必死に言いたいことを頭の中で整理しているのに、待てないとばかりに唇を塞がれる。
容赦なく翻弄するような口づけに意識を持っていかれ、あっという間に頭が回らなくなる。
最初こそ少し抵抗したものの、すぐに言葉を忘れてぼーっとした頭で受け入れてしまう。
俺の様子を見て取ると、七海はそっと唇を離した。
「みーちゃん、返事聞かせて下さい。俺と付き合ってくれますか?」
考えることは色々あるはずだが、頭が回らない。
否定も肯定もせず、ただ惚けるように七海を見つめる。
はっきりとした顔立ちが、愛嬌のある目元が、チャームポイントのような泣き黒子が、その全てが堪らなく愛しいと思った。
「…あれ、聞こえてますか?」
「――え?」
ハッと気付くと、クスリと七海が目の前で笑っていた。
くらくらと熱に浮かされている頭を覚ますように、慌てて視線を彷徨わせる。
「…あ、すまない。き、気持ちが追いつかないんだ」
「追いつかない?」
「お、俺の中では電話を掛けることだって精一杯なんだ。お前のすることに…ぜ、全然追いついていかない」
もうずっとバクバクと心臓が早鐘を打っている。
自分がちゃんとした言葉を発しているのかどうかすら分からない。
今までは容赦なく七海が俺を押し倒して頭が回らないうちに色々とされてしまっていたが、今日に限って七海は俺の言葉を望んでいる。
こんな時に何か聞かれたって頭が全く追いついていかない。
おまけに泣いたせいで気持ちはどうしようもなくグズグズになっていて、もう勘弁してくれとばかりに七海の胸に額を押し付けた。
「…あーもう。俺だって今すぐめちゃくちゃに犯したいくらい我慢してるんです。けどそれじゃ何も変わらないんで」
七海が苦しそうに息を詰めたのが分かったが、そっと手のひらが頭の上に落ちてきた。
優しく髪を撫でられると動揺していた心が少しずつ緩んでいく。
ホッとして押し付けていた額をくしゅくしゅと七海の胸に擦り付けたら、すぐに上向かされて余裕なく唇を奪われた。
「…っだから煽るのやめてくれませんか」
「お、お前こそ言葉が欲しいなら少し落ち着いてくれ…っ」
これでは頭が回らず何も答えられない。
ひょっとしなくても俺達の気持ちはかなり合っていないんじゃないか。
分かっていたことだが、改めてお互いの意識の差を感じてしまう。
七海が小さく息を吐き出した。
「…分かりました。合わせましょう」
「え?」
七海の言葉の意味が分からず小首を傾げると、そっと両肩を掴まれて体を離される。
明らかに我慢しているような表情をしていたが、それでも俺の目を真っ直ぐに見つめていた。
「俺はもうすれ違いたくも間違えたくもないんです。ちゃんと話し合って、お互いの気持ちを合わせましょう」
七海にしては真摯なその言葉に、俺はコクリと頷いた。
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