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頬に触れた指先が一度離れていく。
名残惜しさに目で追うと、代わりに伸びてきた両手にガバリと抱きしめられた。
「駄目だ、とか言わないで下さいね」
すぐ耳元で聞こえた声に泣きたくなる。
言わない。
そんな言葉を今言えるはずがない。
俺だってずっと会いたくて、ずっと触れたかった。
七海の背に縋り付くように手を伸ばすと、抱きしめる力が強くなる。
胸の中で聞いた心音は驚くほど速くて、もうどちらのものなのか分からない。
「ずっとみーちゃんに会いたかったんです。合宿は確かに身になりましたけど、みーちゃんに会えなくてすごく苦しかったです」
抱きしめられたまま髪の毛に口付けられ、そのまま唇がこめかみへ滑り落ちる。
柔らかい感触と触れられる温度に心がグズグズに緩んでいく。
もっとその温度を確かめたくて額を七海の胸に擦り付けると、応えるように髪の毛に手が差し込まれる。
「…あ、七海。…その。す、すまなかった」
「え?」
「こ、恋人としてしなければいけないことが…ぜ、全然出来ていなかった」
熱い指先が髪を優しく梳いていく。
そっと顔を上向かせると、七海が俺の顔を見て困ったように微笑んだ。
「お、俺が余計なことばかり言ってしまっていた。お前の気持ちを…か、考えていなくて…」
必死に俺が話していると言うのに、七海は唇を耳に寄せたり、俺の頬を撫でたりと忙しない。
それでも時たまちゃんと視線を合わせて、俺の言葉を促すように小首を傾げる。
「お、お前の事をもっと信じていれば…その、終業式にあんなことを言わせるつもりもなくて…っ」
額や頬に口付けられ、耳をくすぐられ、眼鏡を取られる。
頭がくらくらとしてくる。
自分が何を言っているのか分からなくなりそうだ。
謝ろうとしているのに忙しなく触れられて、頭の芯がどうしようもなく蕩けていく。
「だからその…俺はお前が…その、つまりお前のことが――」
好きだ。
どうしようもなく大好きなんだ、と真っ白な頭で伝えようとしたが、不意にせり上がってきた想いに涙が零れ落ちる。
頬を滑り落ちた涙に七海が口付け、瞼にも唇を落とされる。
甘やかされるような仕草に涙腺が壊れたように次々と涙が溢れてしまう。
「……っ」
ちゃんと伝えたい。
七海に好きだって言葉を伝えたい。
伝えなければいけなかったんだ。
俺はそれすらも出来ていなかった。
言いたいのに涙のせいで喉がヒクリと震えてしまう。
言葉を途切れさせてしまった俺に、七海が優しげに目を細める。
大丈夫、とその目が言った気がした。
「みーちゃん、好きです…大好きです。めちゃくちゃ愛してます」
代わりのように七海が言ってくれて、余計に涙が溢れる。
もうボロボロになりながらコクコクと頷く俺に、七海はそっと唇にキスをした。
軽く触れるだけですぐに離されて、だがすぐに啄むようにまた口付けられる。
もう何も考えられず、ぼーっと七海にされるがままに身を委ねる。
「――っと」
何度目かの口付けの後、不意に七海の手が唇に当たった。
酷く熱を持った目が俺を見つめてから、不意に身体を離して教室の扉の方へと顔を上げる。
回らない頭でその温もりを追いかける。
どうして離したんだろう。
まだ触れていたい。
まだ足りない。
もっと欲しい。
強請るようにグイと腕を引くと、ハッとしたように七海が息を詰める。
どこか苛ついたように廊下を睨んでから、荒々しく俺の手首を掴んだ。
「みーちゃん、場所変えましょう」
そう言って七海は鞄を落とすと、俺の手を引いて教室を出る。
それと同時に反対側の扉がガラッと開いて、数人の生徒の声がした。
どうやらまだ残っていた生徒が教室に戻ってきたらしい。
全く気付かなかった。
数学準備室に行くのかと思ったが、七海はすぐ側の男子トイレへと俺を連れ込む。
時間も時間で誰もいなかったが、手前の個室に俺を押し込めた。
「…ちょ、ここは――」
「すいません、数学準備室まで持たないんで」
言いながら後ろ手で扉を閉めるとカチャリと個室の鍵を掛ける。
それと同時に身体を引かれ、壁へと押し付けられた。
「なな――」
最後まで名前は呼ばせて貰えず、唇を奪われた。
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