アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
179
-
パレードが終わる。
賑やかに集まっていた人々が離れていき、それぞれが様々な次の目的へと散っていく。
近くで人の声が聞こえ始めると、七海はそのまま手を引いて遊園地の出口へと歩き始めた。
「…ま、待ってくれ。まだ…その」
「なにかまだありました?ああ、お土産買ってなかったでしたっけ」
「土産じゃない。…その」
「言いたいことは家に帰ってから聞きます。…ここでは聞きたくないです」
そう言った七海の横顔がどこか淋しげに見えて、ギクリとしてしまう。
俺はなにかまた間違えたのか。
一体どこで擦れ違うことがあったんだ。
何を間違えたのかは分からないが、話をしないことには絶対に分かりあえない。
俺達の性格は本当に合わなくて、話をせずに俺が七海の気持ちを察するなんて事は出来ない。
だが七海は俺の手を引いてぐいぐいと歩いていく。
まるでもう遊園地には未練などないといった様子だ。
あんなに行きたがっていて、時間が経つのが早いと惜しんでいたのに。
「な、七海。待ってくれ」
「なんですか。もう早く帰って何も考えられないほど気持ちよくしてあげますから」
「そ、それは…っ」
カッと顔に熱が昇る。
やはりただの性欲バカなのか。
こんなに俺が必死に伝えたいことがあるんだと言っても、結局七海にとってはそれさえ出来ればいいということなのか。
ギュッと唇を噛みしめる。
繋いだ手はなぜか冷たくて、いつもの熱い手のひらの温度が感じられない。
七海は確かに性欲バカだが、いつだったかそれを指摘した時にちゃんと理由を言っていた。
そういう行為をしている時は、自分しか相手が見ていないからだと言っていた。
俺は今までの七海を見てきて、本当に七海がそれだけを目的に俺と一緒にいる奴だと思っているのか。
「――あ、あれに乗りたいっ」
勢いよく口を開いていた。
驚いたように七海が振り返って、俺の指差した先を見る。
なんとか時間を稼ごうと目についたものを指差しただけだったが、どうやらそれは結構な時間を稼げそうなものだ。
「…観覧車。それさっき俺が――」
言いかけたが、七海は少し考えるように首を擦る。
だが何も言わず俺の手を引いてそちらへと足を向けてくれた。
「みーちゃん、高いところは平気なんですか?」
「た、高いだけなら何も問題はない」
「じゃあ大丈夫ですね。観覧車は怖くないから安心してください」
その言葉にホッとする。
提案したはいいが見かけより急回転していたらどうしようかと思った。
待ちながら七海は何でもないように再び俺に話しかけてくれたが、その手は冷たいままだ。
待っている間に空のオレンジ色が濃くなり群青色が掛かり始める。
ようやく俺達の番になり、七海に促されて先に乗る。
狭いスペースの片側に腰掛けると、七海が後から入ってきた。
「――ん?」
なぜか隣に座った。
係員に少し不思議そうに見られた気がするが、鍵を締めると何事もなく観覧車は昇っていく。
「おい待て、なぜ隣に座る。普通こういう物は向かい合わせに座るんじゃないのか」
「え、知らないんですか。恋人は隣同士で座るのが普通ですよ」
「…そうなのか?」
「もちろん。今時それくらい常識ですよ」
当たり前のように言われて、そうかと押し黙る。
そんなことも知らないとか、やはり俺は恋人としての知識も不十分らしい。
ゆっくりと上っていく観覧車が、窓の外の景色を遠ざけていく。
この観覧車が一周回るまでに、七海に気持ちを伝えたい。
いやその前に何かすれ違っているならそれも話し合わなければいけない。
ならもう勢いで話してしまおうと隣へ顔をあげる。
「な、七海。俺はお前に言いたいことがあって――」
ガブリと噛みつかれるように唇を奪われた。
「――ん…っ、こ、こらっ」
ぐいとその胸を押す。
コイツは公共の場でなんてことをいきなりしてくるんだ。
それに個室とは言え窓の外には他の部屋も見えて、こちらから見えるということはあちらからも見えているということだ。
そんなところで男二人がこんな行為をしているとかそれこそ通報されかねない。
「だ、ダメだ。俺の話を聞いてくれ」
「…っ嫌です。みーちゃん、俺を見て下さい」
見ている。
七海だけをちゃんと見ているのに、どうしてそんな事を言うんだ。
顎を取られて、再び唇を重ねられる。
唇や舌先に吸い付き、割って入ってきた舌が上顎をくすぐる。
いつもながら子供とは思えない巧みな口付けに、脳が痺れてくたりと力が抜けていく。
「ん…っはぁ」
目がとろりと落ちて、隣にいる七海の肩に寄りかかってしまう。
それに気付くと七海は俺の頬を撫で、髪の毛へと唇を寄せた。
愛しむようにこめかみや額に口付けられながら、ぼーっとする頭で外の景色を眺める。
まん丸な夕陽が沈んでいき、それとは逆に観覧車はゆっくりと高度を上げていく。
七海の手が俺の太腿を意図した手付きで撫で、先程のキスで過敏になった身体がピクリと震える。
そのままズボンの上を手が滑り、太腿の中心へと動いていく。
七海の肩に頭を預けたまま、ぽつりと口を開いた。
「…なぜ話を聞いてくれない」
ピクリと七海が動きを止める。
少しの沈黙の後、どこか不貞腐れたような視線が落ちてきた。
「…だってそれいい話じゃないですよね」
「え?」
「みーちゃんの真面目な話っていっつも俺を突き放す言葉ばっかりです」
「…そ、そんなことは」
ない――と言い掛けて、確かに七海相手に俺はあまりまともな話が出来た覚えがないことに気付く。
七海を好きだという意思表示をする時はいつだって頭が真っ白で何も考えられず、ちゃんと伝えられた記憶はない。
対して勉強をしろだとか場所を考えろ、など突き放すための言葉は今までにも数多く言ってきていて、それこそ七海にそう捉えられてもおかしくないほどに言い続けてきた。
「ち、違う。誤解だ。そんなことは言わない」
「――えっ」
ひとまずそう伝えたら七海が目を丸くして俺を見る。
それからすぐに脱力したように息を吐き出した。
「あーもー…なんだ。てっきり別れられるのかと思ったじゃないですか」
「なぜだ。そんなわけないだろう」
「だってみーちゃん今日ほとんど俺の事見てくれないし話も聞いてくれないし、もしかしたらつまんないのかなーって…」
「ち、違う。つまらないなんてことは絶対にない」
慌てて訂正したが、少し驚く。
俺も七海がつまらないのではと心配していたが、七海も同じように俺がつまらないのではと心配してくれていたのか。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
189 / 209