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賑やかに話す声が聞こえる。
教授と会話しながら大学内のテラスを横切っていたが、きゃいきゃいと煩い女の声にイラっと視線を向ける。
賑やかな集団は男女ともにいたが、その中心に七海がいた。
昨日のこともありまたしても苛立ってしまうが、いや落ち着け。
そう妬いてばかりいてどうする。
アイツが人気者なのはもう分かっていたことだし、いちいち気にしていたらキリがない。
フイと視線を逸らして再び歩き始めたが、後ろから元気な声が飛んできた。
「――紺野先生っ」
どうやらアイツも俺を見つけたようで、すぐに駆け寄ってくる。
その後ろで集団が唖然としている。
それももう見慣れた光景だ。
教授に謝りをいれて七海の元へと歩く。
苛々していたはずなのに、視線が絡むとどうしても胸が熱くなってしまう。
心臓が速くなり、頭がぼーっとしていく。
悔しいことに七海が好きで堪らない。
「みーちゃん、昨日なんで電話出てくれなかったんですか」
「…えっ?」
「話の途中でブチッて切っちゃうから機嫌損ねたかなって何度も掛け直したんですけど」
「あ…すまなかった。昨日あれから飲みに行ってしまって全然気付かなかった」
マナーモードで鞄の中に入れっぱなしだった。
今朝も講義があったためバタバタしていて、携帯を見ることなどすっかり忘れていた。
「…あんな時間から飲みに行ったんですか」
「神谷と教頭に偶然会ったんだ。それで誘われて少し飲んだだけだ。別に神谷と二人で飲んでいたわけでは――」
話の途中で不意にぐいと顎を掴まれた。
力強い手にビクリとすると、眉を顰めた七海の顔が目の前にあって驚く。
「俺迎えに行きたいって言いましたよね。俺との時間は拒否したのに他の男には媚びてたんですか」
「こ…媚びてたわけでは…っ」
カッと顔が熱くなる。
何だその言い方は。
慌てて手を振り払う。
「お、お前だって昨日女といただろう。今だって…っ」
「ただの友達です。そういうことを言ってるんじゃなくて、みーちゃんは俺と一緒にいたいって少しでも思ってくれないんですか」
怒ったような七海の表情に、心臓がギュッと掴まれたように痛くなる。
そんなこと思っているに決まってる。
いつもドキドキしているし、七海のことばかりすぐ考えてしまう。
数学を始めると確かに飛んでしまうが、それでもいつだって七海のことで頭がいっぱいになっている。
「す…すまない。俺が全部悪かった。もう怒らないでくれ」
簡単に心が折れてしまう。
すれ違いたくない。
ただでさえ時間が合わないのに、怒らせたくない。
「いえ、怒ってるっつーか…ってそんな一気に泣きそうな顔しないで下さいよ」
「す…すまない」
そう言ったらあろうことかボロっと涙が溢れた。
七海に少し怒られたくらいで一気に心が折れるとか自分でもどうかしている。
「――ちょっ、わっ、す、すいませんでしたっ。俺が悪いですっ。もう全部俺が悪いっ」
「違う。お前は悪くなくて…」
慌てたように七海がアタフタした後、俺の手を引く。
促されるまま歩くと、校舎裏の人気のない木陰にまで連れてきてくれた。
涙はすぐに止まったが、両頬を七海に包み込まれて持ち上げられる。
久しぶりに触れられた手のひらは熱くて、この場所がどこだか忘れてしまう。
「…すみませんでした。最近一緒にいられないのに、他の奴といたって聞いたら焦っちゃって――」
「お…お前も焦ることがあるのか」
電車の中や学校であんな行為をしてみせる強心臓のくせに、一体どこで焦るんだ。
「焦りますよ。焦りまくりです。みーちゃんの気持ちが離れたらどうしようって、ここ最近不安だったんです」
ざあっと優しい風が吹く。
木漏れ日が七海の顔に落ち、真っ直ぐな視線を近くで見ながらその色の深さに魅入ってしまう。
「数学にみーちゃんを取られるのはしょうがないですけど、他の男にまでみーちゃんを取られたくないですから。子供みたいにムキになってしまってすいませんでした」
七海の言葉をどこか他人事のように聞きながら、ぼーっとその目を見つめる。
心臓がバクバクして、頭が回らない。
顔が熱くて堪らない。
「…あれ、みーちゃん?」
惚けたように七海を見つめていたら、不思議そうに首が傾げられた。
ハッとして視線をそらす。
「あ…ええと。すまない。ど…ドキドキしてしまって頭が回らな――」
言葉の途中で、そっと唇を奪われた。
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