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Ice-bound 2
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ざわついてきた病院の中、暗黒の世界から魅冬は目を覚ます。
今回は夢を見なかった。
人は深い眠りだと、夢を見ないと聴いたことがある。浅い眠りなど、この世から消えてしまえ。
そんな事を思い、時計を見る。もうすぐ、朝の回診の時間だ。
今日も朝の回診が始まる。魅冬はパソコンからカルテを開き、患者の名前にひと通り目を通す。
えっと、今日の最初の患者さんは…っと。あぁ。馬場零奈…零ちゃん…か。
精神科医は聞き上手な子に向いている …らしい。(ほんとかどうかは知らないけど。)
精神科はうつ病、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症といった、いわゆる心の病を薬とか精神療法によって治療する…ので、厄介な人や、もちろん思春期の子供も多い。
今日のトップバッターの零ちゃんもそんな患者の1人。
「おはよう。しばらくぶりだね、零ちゃん」
扉を開け、1人病院着を着てゆっくりと入ってきたショートカットで外ハネの髪の零ちゃんに、まずは普通に挨拶。
そして、患者さん、今日で言えば零ちゃんの機嫌や気持ちをできる限り読み取る。
精神科医になり、人間を診察していると、自然と人の心が読めるようになってくる。
「おはよ…ございます…」
小さな声でも挨拶し返してくれたことに安堵する。
今日は前よりも、気持ちが落ち着いている。前回は…もっと混乱してたからなぁ。初めての回診のことを思い出し、少し魅冬の警戒心がほぐれる。
零ちゃんが落ち着いて来てくれたことがわかり、少し安堵しつつ、診察を進める。
魅冬は落ち着いた口調で話し出した。
「薬、よく飲んで眠れた?」
「うん…もう、眠れないなんてことははあの薬のおかげで無くなった…」
前回の診察時、いきなり零ちゃんの苦しかった記憶の扉を自分自身で全開にして話し始めてしまい、
混乱している中、夢のせいで眠れないと話していたので、睡眠薬を処方したのだ。
だが、眠ることは出来たらしい。
零ちゃんが話を続けようとまた口を開く。
「でも、根本が解決したわけじゃ無いんです。
その、薬のおかげであの…苦しい夢は見なくなったかもしれないです。…けど、私はまだ、…私の、心は、痛い。苦しい…」
全開よりすごく口が回る患者の馬場零奈を見て、魅冬はいつもの患者と同じことを思う。
『あぁ。こいつもか。』と。
魅冬の中で心が冷えていく。見苦しい。
そう、魅冬は思った。
「…?せんせ…??」
何も答えない小鳥遊先生のことを不思議に思ったのだろう。患者さんが声をあげる。
「あぁ。ごめんね。ちょっと零ちゃんのことについて考えてた。そうだね。そんなことで、零ちゃんの傷ついた心は癒える訳ないよね。」
魅冬は同情の意を患者に示す。
「…うん。でも、仕方ないんだと思います。
私が…たまたま、ほんとに…たまたま、不幸だから。…お母さんが、癌で…亡く、なったのも、仕方なく…て。…でも、やっぱり…苦しくて、くる…し…くて。わた、私、どう…生きてけばいいのか…分かんなく…な…て」
零ちゃんの声が震えていく。
隣でパソコンに概要を打っている研修医は、悲痛な表情で文字を打っている。そんな虚しい状況に陥っていく中、魅冬の心はなお、冷えていく。
今日は、この子に喋りたいだけ喋らせて、目の前で繰り出される悲劇のヒロイン劇場を見ておくか。魅冬は零奈に続きを促す。
「零ちゃん、あなたの生い立ちを先生は知りたいな。零ちゃん。先生はね、あなた自身に興味があるの。まずはあなたのことを知らなきゃ。さぁ、先生にあなたの過去を教えて?
まずは、名前と年齢から。」
「うん…馬場零奈、15歳。生まれは…」
馬場零奈は、鍵のかけていた自分の過去を開き、記憶の海に浸っていった。
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