アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
Ice-bound 3
-
馬場零奈は、至って普通の家庭に産まれた。
それほど贅沢は出来ないけれど、家族仲の良い、どこにでもある、平凡な家庭。
彼女は、その環境のおかげでとても暖かく、心優しい少女に育っていった。
親からは、
「誰にでも優しくしなさい。」
「あなたの正しいと思うことをしなさい。」
そう、教えられていた。
友達同士の腹の黒い、ま探り合いをこの目で見た時でも、いつでもニュートラルな位置に立ち、きちんと自分を保っていける。まさに、「生徒会長」的な人間だった。
そんな彼女のことを恨んでいる人間、嫌っている人間は少なからずいただろう。
しかし彼女は、彼女なりの生き方で自分の存在意義を作っていき、成長していった。
その中の1つが、『家族』だった。
彼女が6年生の終わりを迎えようとし、クラスメイトの中では最後にみんなで遊ぶ計画を立てたり、6年間という長い学校生活の思い出に浸っていた。
そんな一生に1度の経験をし、青春真っ盛りを味わっている彼女に突然、あることが起こった。
家に帰ると、あんなに仲の良かったママとパパが大喧嘩をしていたのだ。
そんな親の姿を彼女は見たこともなかったし、見るなんて予想もしていなかった。
心の準備なんて、もちろん、出来ていなかった。
普通の人にはなんてこともない大人同士の喧嘩も、彼女にとっての『非日常』であった。
「なんなの!?この写真は!!あなたのことを信じていた私が馬鹿みたいじゃない!!!」
「お前の子供に対する愛が見えない。そんなお前の態度をみて、零奈とあともう1人の子供を作ろうとお前に言っただろうが!!!!」
「私はあんな子供より、あなたのことがもっと大切だったの!!!!」
零奈は、そんな、自分と血の繋がっている、切っても切れない人達との会話を呆然と聞き続けた。
現実かどうか、わからなかった。
喧嘩は大喧嘩となり、警察沙汰にまでなったこともあるという。
その後の記憶は、零奈にとってあまりにも早すぎるもので、あまり覚えていない。ごちゃごちゃしすぎて、記憶が鮮明ではないのだという。
彼女の覚えていることをいくつか上げるとすれば、彼女の知らない間にいつの間にやらその変えられようのない事実が彼女にとっての存在意義の1つである『学校』に広まってしまい、酷いいじめを受けたということだ。
今まで生徒会長のようであり、正義感と優しさの塊ともいえる彼女の親が正義感をもっていないことを知り、彼女を少なからず憎んで、嫌っていたよくあるグループが目をつけた。
よくある話。
そのグループや、巻き添えで彼女を見ていた人達は、彼女がボロボロと崩れていく様をさぞかし楽しそうに見ていたことだろう。
しかし、彼女はまだ生きていた。
それでも彼女はまたあの暖かい家庭が戻ってくると、心のどこかで信じていた。
そんな彼女の願いを神様に願い続けられたのも、ほんの少しの間のことだった。
彼女の親が離婚し、戸籍上の家族では無くなったのだ。
零奈は母の方に引き取られ、父に零奈のことについて罵声を浴びせ続けられていた人間が当たれるのは、家族で不幸にも生き残った、血の繋がっている娘だけだった。
「お前のせいだ」
「お前のせいでこんなことになった」
「お前が悪い」
「存在する意味もない」
「きえろ」
周りからのいじめは続き、青春の数ページである修学旅行や卒業式、入学式を、不幸にも周りと同じように体験出来なかった零奈の心にその言葉は深く刺さっただろう。
「痛い」
「苦しい」
「助けて」
頼れる家族のいない彼女は、自分を見失いがちになってしまった。
そして、彼女の身にトドメの出来事が起こる。
いつものように眠れない彼女は朝早く、自分の部屋からなんの心構えをもせずに、なんとなしにリビングへと出た。
彼女は、停止した。
リビングテーブルのすぐ側で、
振り子のように、何かが揺れていた…
零奈には、それが、現実なのか…それとも夢の続きなのか…
わからなかった。
まるで振り子のリズムを刻むかのように、
「それ」は揺れていた。
零奈の子供の頃、使っていた、お気に入りの虹色の縄跳び。
それがママの首にまとわりついて、離れない。
「…マ…ま??…」
時間が止まったような空間で、零奈はゆっくりとそれの前にいき、自分以外は誰もいないと錯覚するような静けさの中、さび付いてしまったかのようなぎこちない身体で、
ゆっくりと、顔を上に上げる。
瞳孔を開き、生存活動できなくなった目で、うらめしげにこちらを見ている死体となったママが、
「お…まえが…わるい…」
と、口を動かした。
馬場零奈は、自分を失った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 10