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この時間帯の列車は流石に空いている。
仕事帰りのOLやサラリーマン、酔っ払いや、塾帰りの高校生、少ないながらも様々な人達が乗っているものだ。
みんな静かに電車に揺られながら、各自銘々に別の事をしている。
静かな列車内、そして窓から見える暗闇、これから自分はどうなってしまうのだろうと不安が募る。
『次は○○。○○です。』
ぼーっとしていると、電車アナウンス特有の鼻にかかった声が聞こえてきた。
そろそろ降りる準備をしなければと思い、立ち上がり、扉の前に立った。
ヴーっとバイブが鳴りメールが来たことを知らせた。
『ーー駅を出たら右手にある石像の前で少し待ってろ』
どういう事だ。家の住所を送って来ては、ここに来いと指図したり、今度は石像の前で少し待てと言ったり。かなり感じが悪い。
列車が駅に到着し電車を降り、取り敢えず言われた通りに、駅を出て右手の石像の前に行った。
我ながら従順だ。知らない奴の言う事をここまで聞いているなんて、僕はどうかしている。
「やっぱり、駅前は賑やかだなぁ」
こんな時間だというのにまだ人が沢山いる。
圭が居る、石像の近くにも何人かまばらにいて、皆同様に、携帯を触っていた。
賑やかな所に来たのは久し振りだ。
何年も薄暗い部屋と、柊弥の家の周辺でしか生きていなかったのもあり、少しだけ落ち着かない。
待ってろとは言われたものの、さっぱり意味が分からない。
取り敢えず来ていたメールを返そうと、携帯を手に取ると、今度は着信がかかってきたのだ。
「電話・・・」
圭は、急に掛かってきた電話に緊張しながらも、コールボタンをタップした。
「・・はい」
『おまえ服、何着てる』
「え?」
『洋服は何を着ているんだと聞いているんだ』
「あ・・・パーカーですけど」
圭がそう言うと、電話はブチッと一方的に切られた。
一体何だったんだ。
つくづく不思議な人だ。などと思っていると
「おい」
突然後ろから声を掛けられ、振り向く。
すると圭の前には、ワイシャツにスラックス(スーツのズボン)という格好をした、精悍な顔立ちの、男性が立っていたのだ。
その男性の放つ雰囲気に、圭は凄んでしまい、声も出なかった。
「何か言ったらどうなんだ。俺に会ったらまず、文句を言ってやりたかったんだろう?」
そう言いながら男性は片方の眉をクイッと上げた。
「あ・・・貴方ですか。」
「そうだ。取り敢えず付いてこい」
有無を言わさずそう言うと、黙々と歩き始めた。
男性は190cm程の身長だろうか。圭とは20cm以上の差があるため、脚もかなり長い。歩幅が違い過ぎるのだ。圭は置いていかれないように、必死に男性の背中を追った。
暫くすると、立派なマンションが圭の前に現れる。
二人はエントランスを抜け、エレベーターに乗り込んだ。
エレベーターなど付いているマンションは、見たことが無かった為、少々不思議な感覚になる。
それにしても、隣の男性はさっきからずっと黙っているのだ。かなり気まずい。
エレベーターを降り、少し歩くと一つの部屋の前で立ち止まる。
男性は慣れた手つきで、玄関の横に付いているセキュリティに、番号を打ち込んだ。
そして、ガチャッと音を立て扉を開け、先に中へ入った。後に圭も続き、入ろうとしたが思わず息を飲んだ。
玄関から見ただけでも、立派過ぎるのだ。これ程大きいマンションに住んでいるなんて、この巨人は一体何者なのだろうか。
「そんな所でボケーっと突っ立って何をしている。早く中に入れ」
「いや、立派なお家だと思って・・お邪魔します」
圭は部屋の広さに、少々緊張していた。
当の本人はソファに座り、歩いたせいか少し崩れた前髪をかき上げると、長い脚を組みながら、タバコを吸い始めた。
煙草がこんなに絵になる人をリアルで見たのは初めてだった。
長い指に品よく挟まれ、白い煙を立ち登らせるそれは、まるでその人のためだけにあるかのように、静かに存在を主張していた。
何となくその姿から目が離せなくなり、ぼーっと見つめていると
「俺の顔になにか付いているか?いつまでもそこに立っていないで、座ったらどうだ」
「あ・・・はい、失礼します。えっと・・・あのー、僕は何故ここに呼ばれたのでしょうか・・」
そう言いながら、その男から離れたところに座る。
なぜ僕がこんなにペコペコしなければならないのだ。本当にこの人の上から目線には適わない。
「遊んでやると言っただろう?それよりおまえ、名前は」
「あ・・・はい・・。田端 圭です」
「圭、遊んでやるという意味は分かるな?」
「・・何となくは・・。」
「物分りがいい奴は嫌いじゃない。シャワーを浴びるなら先に行ってくるといい」
やっぱりそういう意味だよな、などと変に納得がいく。こんな"時間に呼び出される"なんて事は、そういう目的でしかないだろう。
それにしてもぶっ飛んでいる。見ず知らずの圭を呼ぶなんて。
だが、外でレイプまがいの事をされるぐらいなら、この男に抱かれる方がマシな気もする。
行為自体はそんなに嫌ではない。
しかし圭は、自分の身体に付いた傷の存在を思い出す。
自分の醜い身体が脳裏に過ぎる。
抱かれていい身体じゃない。
「あの、貴方のお名前は?」
「東條 秀暁だ」
「東條さん、すみません。僕、やっぱり帰ります」
「ここまで来ておいて何を言っているんだ」
ずっと興味なさげに煙草に向かっていた視線が、やっと自分の方を向いた気がした。だがその視線に居た堪れなくなってしまい俯いた。
「・・すみません」
ぽつりとそう呟き、頭を下げる。立ち上がりリビングの扉に手をかけたその時だ。
圭の右手にゴツゴツとした、男らしい大きい手が重なり、顔の横には長い左腕がドアの方に伸びているのが分かる。いわゆる壁ドンというやつの逆バージョンだ。完全にホールドされていた。
そして右の耳に息がかかる。
「やっぱり生意気だな、おまえ。」
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