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何か言わなければ。そう思えば思う程何も出てこない。
すると右手を掴んでいた手が、圭の顎を掴み少しだけクイッと後ろを向かせた。後ろを向かされたことによって、自分の顔のすぐ横にあった東條の整った顔が、グンッと近くなる。
獲物を射るような鋭い目付きで見つめられると、心臓がおかしなくらいドクンと心拍数を上げ、逸らす事が出来なくなった。
「言っておくが、この家にいる限りお前に権限はない。俺がいいと言うまで、お前は逃げられない」
耳に響く声でそう言われた次の瞬間、拒否する間もなく噛み付くように唇を塞がれ、東條の熱い舌が圭の口内を激しく犯した。
「・・・っん」
息をつく隙も与えないような激しい口付けに、頭がぼーっとして思考が完全にストップしてしまう。
くるりと体制を変えられ、先程までは自分の目の前にあった扉を、今度は背中で感じた。
「・・・・っはぁ、」
やっと離された唇に、肩で息をし不足していた酸素を体内に取り込み、涙目でキッと東條を睨んだ。
「そんな顔をしても無駄だ。悪いが逆効果だ」
自分を見つめる形のいい切れ長の目の奥に、熱が籠ったのが分かる。
再び東條の顔が近付いてきて 、圭の唇を奪った。
今度は口内を暴れ回るような激しいものではなく、深く濃厚なものだった。
「んっ・・・ふ・・ぁ・・」
自分の腕を掴んでいた手が、上から下へと身体のラインを辿っていく。
まずい。このままだと流されてしまう。
どうにかしなければいけない。服を捲られてからバレるくらいなら、もういっその事自分から言ってしまおう。
東條の唇が一瞬離れたのと同時に口を開いた。
「あの。」
「なんだ」
口付けを止められたのが癪だったのか、少しだけ怪訝そうな表情を浮かべる東條を尻目に、ふぅーと息を吐き決心を固める。
そして自分の服を少しだけ捲った。
「見てください、これ。酷く醜いでしょ。ここだけじゃないんです。とてもじゃないですけど、人には見せられないような火傷もあるんです。人に抱かれていい身体じゃない。」
すると東條は表情を変えず、脇腹についている傷のうちの一つを撫でた。
「抱くか抱かないかは、俺が決める事だ。先程も言ったが、この家にいる限りお前に権限はない。それにどれだけ傷付いていようが、俺には関係のない話だ。嫌なら初めから"来ない"という選択肢があったと思うが。どうなんだ」
そう言い終わると片方の眉をクイッと上げ、圭を見下ろした。
完膚無きまでに論破され、言葉を失う。
確かに東條の言う通り、関係の無い話だ。
それに嫌なら来ないという選択肢もあったはずだ。というのも全くの正論。
だが、今の圭にはここまで冷たくされ、ド正論を言われ、それでも平然としていられる程の強さは残っていなかった。
ただただ悲しくなった。
一体東條のセリフのどの部分に悲しくなったのかは自分でもわからない。だが気付いた時には涙が頬を濡らしていた。"ああ、僕泣いているんだ" と脳が自覚すると、胸が苦しくて仕方がなくなり、身体の傷も心の傷も思ったより深かったのだな、などと感じた。
「・・・そう、ですよね。東條さんの・・・言う通りです。すみません。」
「何故おまえは泣いているんだ」
「・・分かりません。」
「分からないのに泣くなんて、不思議な奴だなお前は」
「自分でも・・自分が・・・不思議です。でも、少しだけ・・疲れてるんだとは思います。あの・・・東條さん。」
「なんだ」
「・・・しますか?」
権限は自分には無いと二度も言われているのだ。
涙でぐずぐずになりながらも、一応するかは聞いておかなくてはな、と思ったのだ。
「そうだな、取り敢えずシャワーでも浴びて顔でも洗って来い。目が腫れている方が醜い」
「・・・ありがとうございます」
初めて会話した時から東條は本当に上から目線で、何度もムッとした。それに、何処と無く冷たさも感じた。だがこの時ばかりは、少しだけ優しさを感じてしまったのだ。
悪い奴ではないのかもしれないな、と圭は考えながらもシャワーを浴びる事にした。
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