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パタリとドアが閉まると、東條は机の上の煙草に手を伸ばす。
なんとなく、外で吸いたい気がしてベランダの窓を開け、外へと足を伸ばす。
考え事をしたい時は大体いつもここに来るのだ。
段々暑くなって来たとはいえ、夜の風は少しだけ冷たい。
真っ黒な闇の中に、アクセントを加えるかのよう明かりを灯している街を眺めながら煙草を咥え火を点けた。深く煙を吸い込み吐き出す紫煙は、夜景に溶け込み白のくっきりとしたコントラストを描いていた。
欲を吐き出すための相手だとしたら、圭は少々厄介な相手かもしれない。
見た目は正直に言うと、かなり美しい。
透明感のある白い肌にアーモンド型の綺麗な目。形のいい鼻のその下にしっかりと、だが控えめに存在感を主張しているサーモンピンクの唇。
落ち着いた雰囲気を出す時もあれば、少し幼さも垣間見られる時もある。
だったら何が厄介なのかという話なのだが、内面的なものだ。
服を少しだけ捲り、その白い肌に赤黒くくっきりとつく無数の傷を見せ、抱かれてもいい身体じゃないと小さく震える声で東條に訴える所を見れば、圭が苦労人だという事は一目瞭然だ。
こういう相手は一夜の関係には向かない。
しくじったと思っても、もう遅いのだ。
だが泣かれてしまうと、こちらもどうしたものか、いつものようにはいかないのだ。
こういう関係に情を挟むのは御法度なのだが、どうやら圭の涙には、東條の判断力を鈍らせる力があるのかもしれない。
ぼーっと考え事をしている東條の背後で、低くはないが高くもない耳触りのいい声が聞こえてくる。
「何か考え事ですか?」
振り向くと、タオルを頭に乗せ頬をピンク色に染めた圭が立っていた。
髪の毛を拭きながら、東條の隣に立ち夜景を見つめた。
「わぁ・・・とっても綺麗ですね。こんな綺麗な夜景初めて見た。あっ、そうだ。タオル勝手に借りちゃいました」
そう言うとタオルを目の高さにもちあげ、少しだけ柔らかく笑うとまた夜景に目を落とした。
人の顔を綺麗だと思った事はそんなに無い。
顔は綺麗でも内面が汚い。なんて事はざらであるから綺麗なものも綺麗に見えないのが東條の心理なのだ。
だが隣に立ち夜景に目を輝かせ、白い滑らかな頬を薄い紅色に紅潮させた圭は、不思議と綺麗に光を放っているように見えたのだ。
「水と一緒に緊張も洗い流したみたいだな。待ってろ、俺も少し浴びてくるから」
そう言うとぽんっと圭の頭に手を乗せる。
「あ、すみません。ちょっと馴れ馴れし過ぎましたね」
「いや、それで構わない。暇なようならテレビでもつけるといい」
「はい」
ベランダから部屋に戻り、風呂場へと向かう。濡れたタイルと熱気のこもった浴室に、いつもとの差を感じながら熱いお湯を一気に頭から浴びた。
誰かを綺麗だと思うなんて、おかしなものだ。
自分の口から出てくる言葉や思考が、いつもとは全く違う事に自分自身が一番戸惑っているのだ。
そうもなるだろう。震えながら泣かれてしまえば、いつものように冷たく切り捨てる事など出来ない。
そこまで鬼ではない。
シャンプーとリンスをし、身体を洗う。
東條にとってはこの瞬間が一番好きなのだ。
仕事の時は全身に鉄壁の鎧を着けているかのように、いつでも気を張っているのだが水を浴びればその鎧が外れ、プライベートとしてきちんとoffに切り替えられ、素の自分になれる気がするのだ。
仕事は出来る、頭の回転も早い。だがON/OFFの切り替えだけはどうしても下手だ。
東條はそろそろ戻るか、とシャワーを止め脱衣所へ出たのだった。
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