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しばらく窓の外の移りゆく景色を見つめていると、駅がみえてきた。東條がゆっくりとブレーキを踏むと車が止まる。
「着いたぞ」
「あ、昨日と今日はありがとうございました。あと、ここまで送ってもらっちゃってすみません」
「それは構わない。人が多いから気を付けろ」
「はい、分かってます。」
車を降りると、ドアは閉めずに運転席を覗き込んだ。
あぁ、お別れか。
少しだけ寂しいのは何故だろう。
「さようなら、東條さん」
「あぁ。」
東條の返答を聞きパタンとドアを閉めた。
動き出すダークグレーの車を見えなくなるまで見送った。
なんとも言えない寂しさに圭は首を傾げる。
少し強引ではあったが優しくされれば、寂しくもなるか。などとひとりでに納得し、南口まで歩いた。
車の中でマナーモードにしておいた携帯が、ヴーと震え、確認してみると叔父からだった。
『今どの辺にいる?』
「あ、今ね。南口のバスがいっぱい止まるところにいるよ」
『あぁ!そこか。わかった今行くよ』
「うん、待ってるね」
電話を切り、携帯を開き音楽アプリを立ち上げ東條の車で聴いた音楽をダウンロードした。
イヤホンはないから後で聞こう。とシャットダウンし、ズボンのポケットに携帯をしまい、顔を上げると少し離れたところにスーツケースを引いた叔父を見つけた。
走って叔父の所まで行き、叔父の手荷物をサッと奪った。
「あっ!・・・なんだ圭か。驚かすなよー、スられたかと思って焦っただろ」
「そんなに驚いた?」
ふぅ、と汗を拭う振りをしながら笑う叔父の姿がなんだか本当に懐かしく感じ、圭もにこりと笑った。
「圭、コインパーキングに車停めてあるから、ちょっとここで荷物みといてくれるか?」
「うん、分かった」
小走りでコインパーキングへ向かった叔父の後ろ姿をみながら、荷物を自分の方に少しだけ寄せた。
5分程して戻ってきた叔父と一緒に荷物を積み込んで車に乗った。
「久しぶりだな圭〜。どれくらいぶりだ?見ない間にまた姉さんに似てきたか?」
「ほんとにお久しぶりだね。僕が高校卒業して以来だから4年ぶりくらい?叔父さんそれいつも言うよね、自分では思った事ないけど」
「え、4年も経つのか?いや驚く事に時間が経つのは早いもんだ・・俺ももう48だからなー。」
「叔父さん48なの?僕からしたらそっちの方が驚きだよ」
「あぁ、もういい歳のオッサンだよ。」
久しぶりの再開に車内には和やかな喋り声と楽しそうな笑い声が響く。
あの頃からしたら、少しだけ叔父も老けたが相変わらず見た目は若いままだ。
昔から髭と日焼けと笑顔が似合う素朴な人だったなー、などと思い出にふける。
「でも叔父さんは若いよ。お肌とかツルツルだし、まだまだかっこいいよ。それよりさ、まだあそこに住んでるの?」
「あー!高校の時まで一緒に住んでたあの家?」
「あ、という事はもう今は引っ越したんだ?」
「そうそう。今はもう都内に住んでいるよ。そうだ、圭に会わせたい人が居るんだ」
「えっ、誰?もしかして叔父さん結婚したの?」
「いや、まだ彼女だ。聡美って名前で33歳なんだ。聡美の歳的にもそろそろプロポーズをしようと思ってるんだけど、48のオッサンにはもうキツいか?」
そう言うと叔父は、ははっと幸せそうに笑った。
一人は楽だから生涯孤独で生きていくと言っていた叔父に彼女がいるなんては、かなり驚いたと同時に嬉しかった。
だが少しだけ複雑だった。
「ううん、全然そうは思わないよ。叔父さん素敵だと思う。1人の方が楽って言ってた叔父さんが、いい人見つけて僕も嬉しいよ。・・・でも彼女さんも居るんでしょ?僕が家に居たら迷惑だよね?」
圭が少し気を遣いながらそう言うと、そんな事は無いよ。と叔父が話し始めた。
「圭。お前と一緒に暮らしたのは高校の3年間だけだったけど、俺にとっては我が子のように大事な甥っ子なんだ。聡美もその事は良く知っているし、今回の事を話したら聡美も家に呼ぶべきだって言っててね。お前が家に来るのを楽しみにしているんだよ。今日も朝から電話で圭くんは何時に来るの?なんて聞かれたんだ。俺の心配よりそっちの方が大事らしいぞ」
叔父は最後に少しだけおどけながらそう言うと、優しく微笑みハンドルを握っていない方の手で、圭の頭をぽんぽんと撫でた。
「そっ・・か。ありがとう叔父さん。聡美さんにもお礼言わなくちゃね」
叔父とまだ会った事のない聡美に圭は胸が熱くなり、涙が出そうだった。
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