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思考と感情の差
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「社長。その辺でもうお止めになっておいた方がいいかと・・」
「まだ大丈夫だ」
「どうなされたんですか本当に」
深山が心配げに東條をみている。
それもそのはず。あれからずっと間髪も入れずに、ウイスキーをストレートで飲み続けているのだ。
東條は酒に強い。
酔ったとしても顔には全く出ない為、まず周りは気付かない。だが深山には全てお見通しなのだ。
そんな深山が止めに入るという事は、本人は相当キテいるという事だろう。
流石にウイスキーをストレートで飲み続けていれば、酔いが回るのは当然の事だ。
「もう帰りましょう。」
「何故だ」
「それ以上飲んだら中毒になります。それに社員達も結構キているみたいですから、社長が先に帰らなければ社員達も帰りづらいと思います。」
「そうか、分かった。先に外へ出ているからこれで会計を頼む。残りはツケにしておいてくれ」
「分かりました」
カードを手渡し、社員達に軽く挨拶をすると店の外へ出る。
アルコールが回った身体に、少し冷たい夜風が心地良い。
夜の街は実に人間くさい。
ベロベロに酔ったサラリーマンや水商売の女や男、その他にも多種多様な人々で充満している。
それをぼーっと見つめながらも、背広の内ポケットから煙草を取り出し、煙を深く吸い込んだ。
それから少しして店から出てきた深山の車に乗り込むと静かに目を閉じ、家までの道を任せた。
「着きましたよ」
「すまないな」
「いえ、これも私の仕事ですから。それと何があったかは分かりませんが、無茶な呑み方はもうやめてください」
「あぁ、分かっている。俺のような上司を持ってお前も大変だな」
「いえ、社長のような方の下で働けるのは本当に喜ばしい事ですし、勉強になりますから。」
「そうか、それなら安心だ。帰りには気を付けろ、夜は視界が悪い」
「はい。それではまた月曜日」
「あぁ。」
パタンと車のドアを閉め、ユラユラと揺れる視界の中自分の部屋の前に立ちパスワードロックを解除する。
玄関ドアを開け、自宅に入ると安心感からか、気が抜けて酔いがさらに回ったような気がする。
壁に手を付きながら部屋の中へと足を運びそのままキッチンへ行き、冷蔵庫から水を取り出すと、一気に喉へ流し込んだ。
そしてドサッとソファに座り込むと、ネクタイを緩めながらきっちり後ろに流していた前髪をガシガシと崩した。
業務連絡がなにか入っているかもしれない。メールを確認しなければ。と携帯を取り出しメールをチェックしていたのだがスクロールしていた東條の指が、ふいにピタッと止まった。
"080-○△□◇-△○◇□"
目に付いたのは、1件だけ登録されていない番号とのメール履歴。
誰の番号かは考えなくても分かる。
圭の番号だ。
酔っているせいだろうか。番号を見た瞬間に、今までのモヤモヤが雪崩のように激しく崩れ 、心の中にドサドサと落ちて来たのだ。
どうやら今日はかなり悪酔いをしている。
会いたい。
圭に会いたくて仕方が無いのだ。
ぽつりと心に浮かんだその感情は、遂には会いたいという言葉になって胸に押し寄せてきた。
その途端、凄まじい勢いで溢れ出したその気持ちは、自分では止める事が出来ずに、気付いた時にはもう東條の指はコールボタンを押していた。
5コール、6コールと鳴らしても出ない。
諦めようと携帯を耳から離そうとした時、少し戸惑っているような、耳障りのいい声が鼓膜を揺らした。
『・・はい、もしもし。東條さん・・?』
「圭。今から家に来れないか」
『今、からですか・・?』
「無理にとは言わない」
ちょっと待っててください。と言うとガサゴソという音の後に、少し離れたところで人と話す声が聞こえてきた。
そしてまたすぐに圭の声が近くなる。
『叔父から許可を貰ったので、今から行きます』
「分かった」
はい。とそれだけ言うと通話が切れる。
今から圭が家に来る。
そう思うと、5日間のモヤモヤが晴れていく気がした。
もう明白だというのに、東條は素直ではない。
この感情にまた気付かないフリをした。
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