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日常の変化
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BARと言えば渋いJAZZというイメージだったのだが、ここは違う。1960年代位のものだろうか。ゴスペルとブルースが土台の、フェイクが効いた黒人女性のソウルフルな歌声が圭の耳をくすぐる。
いわゆるSoul Musicというジャンルの音楽だろう。
音量が小さいという訳では無いのだが、煩くないのが不思議だ。
シャカシャカと液体と氷が混ざり合う音と溶け合い、心地が良い。
カウンター越しにシェイカーを振る徹を、食い入るように見つめていると
「気に入ったか?」
テーブルに肩肘を突き、煙草を吸う東條がそう聞いてきたのだ。
この人は居酒屋よりBARの方が似合うな。
などとぼんやり考えながら答えた。
「はい。こういう所ってジャズが流れてるイメージだったんですけど、ここはソウルなんですね。なんだか僕はこっちの方が好きです。氷を混ぜ合わせる音と不思議なくらい合っているし、本当に素敵な所です。」
「へぇ、おまえこういうのが好きなんだな。おい徹、お前と趣味が合いそうだな」
今まで静かにシェイカーを振っていた徹がグラスに液体を移し、圭と東條の目の前にサッとそれを置くと口を開いた。
「本当ですね。圭くん、ソウルはよく聴くんですか?」
「んー、ソウルをよく聴くというよりかは、ゴスペルが主題の映画が好きなんです。その影響でゴスペルとか、ソウルのような歌が好きなのかもしれません」
「そうなんですね、どんなものが好きなんですか?」
「王道なんですけれど、SISTER ACTもそうですし、HAIRSPRAYも好きです。」
「どちらも素敵な映画ですよね。私も好きです。どの場面が好きですか?」
「んー、そうですね、SISTER ACTだと僕はpart1の最後に追われているデロリスを修道女全員で助けた後に、ローマ法王の前で"I Will Follow Him"を歌う所が好きなんです。バラバラだった聖歌隊が一致団結する所がグッと来ちゃって。」
「好きな場面まで一緒なのは驚きました。HAIRSPRAYはどうですか?」
徹は少し控えめに笑うと話の続きを促す。
どうやら趣味が似ているようで、話が弾む。
「HAIRSPRAYだと、ブラック・デイ廃止に対する抗議のために、黒人達がデモ行進をする所が感動しました。その場面でメイベルさんと他の黒人達で歌う"I Know Where I've Been"が大好きなんです。人種差別は今でも根強く残っていますから、あの曲を聴いた時にメイベルさんが生きてきた人生が、これまでどんなものだったのかというものを深く考えさせられました。」
ついつい熱くなってしまい、長々と喋りすぎてしまっただろうか。と少し後悔をしていたのだが、徹はそのまま圭を真っ直ぐと見つめ言った。
「とても素敵な感想が言えるんですね。これで君の人間性がよく分かりました。圭くんが良ければうちで働いてもらえないかな?」
頭で考えていた事とは180度違う事を言われ、驚きのあまり声が出ない。
チラッと横目で東條の姿をみると、優しく微笑みながらも徹の作った飲み物を喉に通していた。
「・・本当ですか?雇ってもらえるって事ですか・・?」
「勿論。私は面接をしない代わりに、こうやって会話をしてその人の人間性を見るんだ。話してみた限り圭くんがいい子だということは分かりました。どうですか?働いてみませんか?」
「はいっ・・・働きたいです。働かせて下さい!」
「それなら決まりですね。それじゃあ、明後日の21:00から来てくれるかな?」
「分かりました!」
無事に話が終わるとしっかりと挨拶を交わし、ETERNALを後にすると古びた雑居ビルを抜け、東條の車へと乗り込んだ。
すると東條が圭の頭をポンッ、と撫で車を発進させた。
「仕事決まって良かったな。」
「はいっ。東條さん、本当にありがとうございました。」
「おまえの為ならお安い御用だ。」
その言葉に少しだけ、頬が緩む。
それよりも、聞きたい事があったのを思い出した。
「あ、そうだ。徹さんとはどういう関係なんですか?それと、東條さんの事を社長って呼んでたのは何故なんですか?」
「あぁ、それか。俺は社長をやっているんだが、徹は俺の秘書の弟なんだ。昔からの付き合いだから、信用できる。安心しろ。」
「・・・・えっ?待ってください。東條さん社長さんなんですか?」
「言ってなかったか?」
「言われてないですよ!」
「そうか、それはすまないな。」
どうりであんなに広い家に住めて、こんなにいい車にも乗れる訳だ。
ずっと疑問に思っていた事が、圭の中でやっと繋がったのだ。
※SISTER ACT(シスターアクト:天使にラブソングを)
1992年製作、"ウーピーゴールドバーグ"主演のミュージカル映画。
※HAIRSPRAY(ヘアスプレー)
2007年制作、"ニッキーブロンスキー" "ザック・エフロン"主演のミュージカル映画。
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