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静謐な世情
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「神奈川支社と福島支社の様子は最近どうなんだ」
「どちらも順調に進んでいるようですが、時期的にもそろそろ視察に行かれた方がよろしいかと思われます。」
東條は椅子に肘をつき腕を組み、考えていた。
プロジェクトを成功させるにあたって、本社だけでなく今回は支社にも頑張ってもらわなくてはならない。
「そうだな。近々行っておこうか。神奈川は都合がつくとして、問題は福島をどうするかだな」
「再来月辺りだと余裕が出来るのでは?」
「そうだな、そうしよう。連絡を入れておいてくれるか」
「はい、分かりました。」
連絡を入れるため社長室を出て行く深山を視界の隅に感じ、手元の資料に目を通す。
東條の会社には支社がいくつかあるため、それぞれの状況をすべて把握しておかなくてはならない。
もし、何かがあった場合は全て東條の責任になる。
社長とはそういうものなのだ。
ふぅー、と息を吐き資料から目を離しタバコに火をつける。
腕時計を確認すると、時刻は17:50。
今日の分の仕事は片付けてある。
携帯でメールをチェックしているとガチャ、と社長室の扉が開き深山が戻ってきた。
「詳しい日付が決まりましたらまた連絡を下さい、との事です。」
「あぁ、分かった」
「この後はどうなさいますか?」
「今日はもうこの辺で帰る。やらなければいけない事は終わらせたしな。お前ももう大丈夫だ」
「はい。」
いつもは大丈夫だ。と東條が言えば、深山は社長室から出ていくのだが、いつまでも経っても出ていく気配がない。
「なんだ?まだ何かあるか?」
「いえ・・・あの、社長。」
「ん?」
「弟から話を聞いたのですが・・・」
「あぁ、恋人の話か。男だがな」
「知っています。弟から聞きました。
社長が8年間蓋をしてきた想いに、気付かせてくれる程のお相手という事は、さぞ素敵な方なのでしょう。
男も女も関係ありません。」
「そうか。何となくお前ならそう言う気がしていたが、それがどうしたんだ?」
真っ直ぐと東條を見つめる深山と目が合う。
「社長には恋人と仕事。どちらも大切にできる度量と器がちゃんとあります。どうか、幸せになって下さい。」
「あぁ。」
今思えば、どちらも大切にできる度量と器が無かった。と言うよりも、昔の東條には、自分に対する自信が無かった。という方が正しいだろう。
プライベートでの安らぎを犠牲にして、常に心が飢餓状態でないと自分を認める事が出来なかったのだから。
そんな東條を深山は誰よりも心配していた。
さぞかし安心したのだろう。
それだけ言うと"お先に失礼します"と社長室を出ていった。
東條はその後ろ姿を見送ると、圭の待つ自宅へ帰る支度を始めたのだった。
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