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静謐な世情
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PM 20:20
「圭くんもう出るの?」
「うん、初出勤だし早めに着いておきたいから、もう行ってみる」
「頑張ってね!」
「頑張れよ、圭。行き帰りは気を付けるんだぞ」
「聡美さんも叔父さんもありがとう。それじゃあ、行ってくるね!」
ガチャ、と玄関ドアを開け外に出る。
東條の車で流したEd Sheeranの"Thinking Out Loud"をイヤホンで聴きながら、駅へと歩みを進めた。
人生初の仕事だという事でもあってか、足取りが軽い。
しばらく電車に揺られ、目的地に着く。
改札を通り抜けETERNALへと向かった。
今までだと、こうやって夜道を歩くのも何となく切ない気分だったが、今はもう違う。
見える景色や、街の色、匂い、柔らかに流れる夜風、全てが新しいもののように圭の身体に降り注いだ。
東條と車で通った道を思い出しながら慎重に歩いていくと、いつか見た雑居ビルが見えてくる。
色鮮やかなネオンを抜け、錆びた階段をゆっくりと上がった。
カランコロンと可愛らしい音がなり、この前と変わらないオシャレな空間が顔を出す。カウンターの中には既に徹が居て、グラスを拭いていた。
近くまで行き、しっかりと挨拶をする。
「徹さん、お疲れ様です。今日からよろしくお願いします。」
「圭くんお疲れ様です。こちらこそ今日から宜しくお願いします。それで、早速だけどこれに着替えてきてもらえるかな?サイズが合わなかったら教えてね。そこを入ったらバックヤードに更衣室があるから。荷物は適当にロッカーに入れていいよ。」
「はい。分かりました。」
ニコッと微笑む徹から制服を受け取り、バックヤードへ行き、まずはロッカーに荷物を入れた。
そして制服を持って更衣室へ入り、着ている服を脱ぎ、制服に腕を通す。
真っ白なシャツにベスト。きっちり目の黒いスラックスにギャルソンエプロン。そして蝶ネクタイ。
初めて着る仕事の制服に緊張感が増す。
最後に蝶ネクタイを整えてバックヤードを出た。
「あ、サイズピッタリだったね。良かった。それにしても圭くんは線が細いから制服が似合うね」
「本当ですか?嬉しいです。」
「よし、じゃあまずオープン前にやらないといけない事を説明するね。新人さんはお酒の名前と瓶の形を覚えないといけないのがまず1つ。
2つ目。お客様に美味しいお酒を提供する為には、まず自分がそのお酒の味を知っておかないといけないよね?だから、酔わない程度に味見をする事。
3つ目はグラスと器具の名前を覚える。覚えたら今度はバースプーンとかシェイカーの扱い方を教えるからね。
バーテンダーは沢山覚える事があるから、少しづつやっていこう」
「はい。」
言われた事を必死にメモをしていく。
圭がメモをし終わった事を確認すると、徹は次の作業の説明をし始めた。
「次は、オープン後ね。基本的に圭くんにはゴミ出しと掃除と洗い物をしてもらおうと思ってる。あとは、お客様とミニュケーションを取る事も大事な仕事だから忘れずにね。」
「分かりました。」
「じゃあ、お店の看板をOPENにしてきてもらえるかな?」
「はい。」
掃除と洗い物には自信がある。
もうそろそろオープンの時間だ。
オープン前にやらなければいけない事は、もうできない。明日から出勤時間を早めよう。圭はそう考えながら看板をCLOSEからOPENへ変えた。
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