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静謐な世情
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日曜のショッピングモールは人が多い。
家族連れやカップル、更には友達同士。
様々な姿が見受けられる。
これ程までに大きい所に来る事は初めてだ。
圭はふと、隣を歩く東條に目をやった。
それにしても目立つ。
身長が高い上に顔も男前だ。周りの視線をチラホラ感じるのだ。
そして何よりも、こういう場所に居るというイメージが、全くもって思い浮かばないのだ。
「なんか東條さんって、こういう場所にいるっていうイメージあんまりないかも。」
「確かにあまり来ないな。それより、お前は何に興味があるんだ?折角おまえとデートをしに来たというのに、いつまでもブラブラ歩いている訳にもいかないだろう。」
「ちょっと・・デートとか言ったら周りに聞こえちゃいますよ・・・!」
「お前も言っているだろう。同じだ」
そう言うと東條は少し笑いながら、圭の頭にポンと手を乗せた。
一つ一つの動作に目を奪われるのだ。
いつもと違う場所に来ているという事もあるのだろうか。
家での東條とは雰囲気が違う事に少しだけ戸惑う。
胸の高まりを沈めるように、圭は口を開いた。
「東條さんこそ、見たい所とかないんですか?」
こんな事を聞いてしまってはまた、質問に質問で返すな。などと言われてしまいそうだが。
なんて思いながらも、なにやら考え込んでいる東條を見つめた。
「靴屋に寄ってもいいか?」
「靴屋さん?何階なんですか?」
「三階だな。向こうから行こうか」
意外にも返答が帰ってきたことに、感心をしているとぎゅっと手首を掴まれ引っ張られる。
周りの目があるというのに、大胆過ぎる東條の行動に毎度の事、心臓が縮み上がる思いだ。
「手掴むのはやめましょう、人いっぱいいるので・・・」
「大丈夫だ、誰も見ていない。それに掴んでいるのは腕だろう。なにか問題あるか?」
「・・・いや、もうお好きにどうぞ」
反論する気もなくなり、東條に引き摺られ歩く。
少し歩くと靴屋が見えて来たのだが、何やら様子が違う。
違和感を感じつつも、店内へ入り靴を見渡す東條をソっと見守る。
そう、何が違うか。という話なのだが、自分の中の"靴屋"という概念とは明らかにズレていたのだ。
お手頃なブランドのシューズが置いてあったり、サンダルが置いてあったり。というのが圭の中のイメージなのだが、ここは革靴ばかりだ。いや、革靴しかないのだ。
正直、こういった靴の違いが分からない。その上1足も持っていない。
恐る恐る近くにあった靴の値札を見て、圭は驚愕した。
そこに表示されていた金額は¥26.000。
これ程の値段の靴を見たことがなかったため、怖くなり 手に持っていたそれを静かに棚へと戻した。
やっぱり社長やってる人は違うなー。などとぼんやり考えていると、東條が圭の所へ戻ってきた。
手には靴先が丸い、紺色のチャッカブーツを持っている。
そんなのも履くのかな?などと考えていると、
「履いてみろ」
「え?」
「はやくしろ」
訳も分からず言われるがままに、靴に足を入れる。
正直、手にするだけでも恐れ多いというのに、履いていいものだろうか。
そんな事を考えている圭とは裏腹に、東條は腕を組みじーっと圭を見つめた。
「もう脱いで大丈夫だ。」
「あ、はい・・・。」
脱いだ靴を手渡すと、東條はそれを棚へ戻しそれと同じデザインのダークブラウンの方を手に取りレジに行ってしまった。
何だったんだ、一体。
理解不能な行動に圭はタジタジだ。
会計を済ませ、紙袋を持った東條がこちらへ向かってきた。
店内の時計を見ると、時刻は18:00。
ここまで来た距離を考えれば、もうそろそろ店へ向かった方がいいくらいの時間だろう。
「東條さん、そろそろ戻りましょうか。もう18時です」
「もうそんな時間か。そうだな、そろそろ出ようか」
ファッションモールを出て、車へ乗り込む。
果たして恋人らしい事を出来ていたのか?と言われれば分からないが、なんだかんだ東條と一緒にいるのは楽しい。
シートベルトを締めようとしていると東條の大きな手が、圭の右腕を掴んだ。手に何かを持たせられ、なんだろう?と思いそれをみたのだが、訳が分からなかった。
「え、これさっき買った靴ですよね?」
「見れば分かるだろう。それ以外に何があるんだ?」
「・・・なんでこれを僕に持たせるんですか?あっ、後ろに置けって事か」
そう1人で納得し、手に持っていた紙袋を後部座席に置こうとすると、その手をパッと掴まれたのだ。
「違う、それはおまえのだ。」
「え?・・・何言ってるんですか?」
そんな事を急に言われ、圭の頭の中は軽くパニック常態だ。
「仕事祝いだ。バーテンダーはいい靴を履いておかないと、格好がつかないだろう?」
「いや、でも東條さん、これ高いですよね・・・?こんなに高い物貰えない・・・・」
「いいから貰っておけ。かわいいお前のためだ。それに心配するな、お返しはちゃんとしてもらう予定だからな」
そう言うと東條は、いつものようにクイッと片眉を上げ、車を走らせた。
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