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静謐な世情
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PM 20:00
一日が半分以上終わり、そろそろ終わりを告げる時刻。
特に予定もなくダラダラと過ごすのも悪くない。
平穏に過ぎていく時間に圭は、満たされていた。
今までは小さな不安や悩みがぐるぐると頭の中を渦巻いていたから、ここまで落ち着いて過ごせたのは初めてだ。
そろそろ帰らないとな。
そう思い、圭は帰り支度をしつつ窓の外を眺めた。
いつの間に降り出したのだろうか。
外はしっとりと雨に濡れ、アスファルトには水が溜まっていた。
「ねぇ、東條さん?」
圭を送っていくために着替え、ソファで煙草を吸っている東條に声を掛ける。
「ん?」
「夜の雨って好きですか?」
「夜の雨か。別に嫌いではないが、どうしたんだ?」
「僕はね、好きでした。」
「過去形なんだな」
「嫌いって訳では無いんですけどね。
ほら、なんだか雨って切なくないですか?だからかな・・昔は、こうやって暗い街並みを濡らす滴を見ていると、あー、空が僕の代わりに泣いてくれてるー、って思ってたから好きだったんですけど。今見ても何も思わないの。どうしてなんでしょうね。」
そう言い終わると背中に優しい温もりを感じる。
いつの間にか、東條に後ろから抱き締められていたようで、ゴツゴツとした腕をそっと触ってみるとほんのり暖かい。
滴の付いた窓ガラスには二人のシルエットがぼんやりと浮かんでいて、そこに少しだけ煌めく街の光はゆらゆらと揺らめき、圭の心を落ち着かせる。
そして、首に回されていた東條の片腕が窓ガラスへと伸ばされ、自分達のシルエットをそっと撫でた。
「きっと、独りではないし、満たされているからじゃないか?ほら、ここに映っているのも二人だ。」
上から紡ぎ落とされるその言葉に、あぁ、そうか。などと納得をしながらも、首を少し後に向け東條の目をじっと見つめた。
「それもこれも、東條さんのおかげですね。」
「それなら良かった。俺がいる事でおまえが今までの事を忘れられるのなら、いくらでも俺を求めればいい。それよりも、そろそろ行こうか。雨がキツくなってる。」
圭が"はい"と答えるとチュッと額にキスを落とされる。
そして、もう一度、行こう。と声を掛けられ、キュッと手を握られた。
腕を引かれながら家を出ると、東條がマンションの正面まで持ってきてくれた車に乗り込んだ。
静かな車内にはポツポツという雨音が響き、何処と無く圭の寂しさを煽っていく。
「なんだか雨音って寂しくないですか?」
圭がそう言うと東條は車を走らせながら、はは、と笑った。
「それは俺と離れるのが寂しいと思っているから、寂しげに聞こえるんだろう?」
「あー、確かにそうかもしれないです。東條さんは僕が帰る時とか寂しくないんですか?」
「うーん、名残惜しいとは思うが寂しくはないな」
「ふーーん。そうなんですね。」
「なんだ、不満か?」
「別に?そんなんじゃないですけど」
「おまえも俺と同じで素直じゃないな。」
東條はまた少しだけ笑うと、圭の頭の中をぽんと撫でた。
耳に入ってくる心地の良い雨音と声色に癒されながらも、車がスピードを落とすのを身体で感じる。
あぁ、もう着いてしまった。
1日がもう少し長ければいいのに。
そう思いながらも圭は、去り際の挨拶をし車を降りた。
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