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時計の歯車
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「國井、この子が圭くん。挨拶しろ。」
鶴橋に國井と呼ばれた男は、名刺を差し出しながらペコリと頭を下げた。
「初めまして。國井 慎也 (くにい しんや)と申します。よろしくお願いします」
堅苦しい言葉とは裏腹に物腰は柔らかで、見た目は爽やかな印象だ。
この男も鶴橋と同様にいい人なのだろう。
醸し出す雰囲気が何処と無く似ている気がしていた。
だが、ここは会社でも取引先でもない。
なにも名刺までは出さなくてもいいのではないか。
などと考えながら、圭は差し出されたその小さな紙を受け取った。
「初めまして、僕は田端 圭です。こちらこそよろしくお願いします。僕は22歳なのですが、國井さんはお幾つなんですか?」
「僕は34歳です。田端さんよりもだいぶ歳上ですね。」
ハニカミながらそう言う國井はかなり好印象だ。
「あ、そうでしたか。あの、國井さんがよければ、もっと気軽にお話して下さい。僕の方が歳下ですから。」
圭がニコッと微笑みかけると、國井は "わかった、じゃあフランクに話させてもらうよ"と言葉を返し酒をグッと煽った。
鶴橋と國井が二人で会話をし始めたタイミングを見計らい、他の客の手元の状況を確認するとキッチンへと行き、冷蔵庫にラップをかけて入れておいたスライストマトを今居る人数分取り出し、オリーブオイルとマジックソルトをかけて提供をし始める。
ある程度他の客にもトマトが渡った所で、最後に二人の元へ行きサッと手元に皿を置いた。
「徹さんがトマトを沢山持ってきてくれたので、宜しければ食べて下さい。味付けはオリーブオイルとマジックソルトだけですが、よく冷えているので美味しいですよ」
"ありがとう"という二人分の声を聞き、グラスを拭いていると鶴橋が御手洗に席を立つのが分かる。
するとグラスを片手に持った國井から"圭くん"と声が掛かった。
「出勤はいつ?」
「えっと、水曜と日曜以外は居ます。」
「へえ、結構多いんだ。」
「はい。あ、あの・・國井さんはここに来られたのって今日が初めてですか?」
「いや、前に一度来ているから、今日で二回目かな」
「そうなんですね。」
「あ、そうだ。この辺に住んでるの?」
「いや、少し離れた所に住んでます」
「ふうん。そうなんだね、いつも電車?」
「あ、はいそうですよ。」
なんだか質問攻めだなぁ、などと思いつつも圭は愛想笑いを浮かべながら答えに徹していると、手洗いから戻って来た鶴橋が"そろそろ帰ろうか"と國井に声をかけた。
「じゃあ、圭くんまた来るよ。トマトご馳走さん。こいつの事も宜しくしてやってね」
二カッと微笑む鶴橋に、圭も笑いながら答える。
「はい。こちらこそ、いつも御贔屓にして頂いてありがとうございます。本当に。鶴橋さんも國井さんも、またお待ちしております」
カランコロンと音を鳴らし、二人が出て行った後のテーブルを掃除しながらふと考えた。
話してみて分かったのだが國井は悪い人では無い。それに、そこそこに口も上手い。
だが、何となく少しだけ違和感があるのは何故なのだろうか。
鶴橋と似た雰囲気なのだが、また少し違う。
一体何がこれ程までに引っ掛かるのだろうか。
圭は少し首を傾げながらも、トイレ掃除へと向かった。
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