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時計の歯車
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"一応アルコール少なめにはしておいたけど、スコッチだから気を付けて飲むんだよ"
コソッと耳元でそう聞こえると、手元にはロブ・ロイが置かれる。
圭は目だけで徹に合図をし、グラスを持ち上げ國井のグラスとカチンと静かに合わせた。
「國井さん、頂きます。」
"うん"と言いながら伏し目がちに微笑む國井をチラッとみながら、カクテルグラスにチェリーの入った赤褐色透明の液体をクッと喉へ通す。
最初に舌に来るのは甘み。
スイートベルモットの甘みだろうか。
それを確実に上回るウィスキーのスモーキーな香りとほんのりとした苦味が口内を刺激し、液体を通した所から徐々にじんわりと熱くなる。
「なに、これ・・・」
初めて味わう酒の味に、圭はぱちくり、と瞬きを繰り返していると、ククッ、と國井の咬み殺すような笑い声が聞こえ、顔を上げた。
「酒は初めてだった?」
「・・・はい。初めてです」
「ロブ・ロイの味はどう?」
「うーん・・・甘みがあって、なんだか綺麗な味がします。口辺りが甘いからスラスラ飲めそうですけど、調子に乗って飲み過ぎたらガツンとやられそうなお酒ですね。」
照明に反射しキラキラと光る、液体を目元の辺りまで掲げじっと見つめる。
しまった。自分の世界に入り込んでしまっていた。
すっかり國井がいることを忘れていた事に、圭は苦笑をしながら口を開いた。
「すみませんっ。自分の世界に入り込んじゃってました」
「ううん、グラスを見つめる君は綺麗だったから、逆に見れてよかった。」
「・・え?」
「何でもないよ」
聞こえてはいたのだが、言っている意味が分からない為に聞き返した。
だが、國井は答えてくれそうにはなかった。
"何でもないよ"と少し微笑み、グラスの中の氷を人差し指でクルクルと混ぜている。
そんな姿をぼーっと見ていると、徹から
「圭くん、ごめんちょっとウィスキー無くなっちゃたから買いに行ってくるね。すぐ戻るから。グラスの状況見る限り、酒のオーダーは入らないと思う」
と声が掛かる。
圭は"はい"と返事をしながらも、店の扉から出ていく徹の背中を見送った。
自分一人になってしまった。
少し不安だ。
だが、徹が言ったように客のグラスはまだまだ減っていない。
その辺も確認して、買出しに行ったのだろう。
流石だ。
そんな事を考えながらも、グラスを拭いていると國井の視線を横目に感じる。
「ねえ。圭くん番号教えてくれないかな」
・・番号?
一体どういう事なのだろう。
「番号・・ですか?」
「うん。ここのお店気に入ったから通いたいんだ。定休日は水曜だっていうのは鶴橋さんに聞いた。だから分かるんだけど、予定外でお休みになる事もあるかもしれないだろう?そういう時に、連絡が欲しいから番号を教えて欲しい。」
少し怪しい気もするが、そう言われてしまっては断れないのが圭の心理だ。
なにも、徹本人に電話番号を聞けばいいのに。とも思ったのだが、その辺は突っ込まないようにし、近くにあったペーパーコースターに番号を書いた。
それを、國井へ手渡すとニコッと微笑み "ありがとう" そう言って背広の内ポケットにコースターを閉まった。
あぁ、番号を教えてしまった。
東條には言っておいた方がいいのだろうか。
だが、國井はただの客だ。先程本人も言ったように、店からの連絡が欲しいだけかもしれない。だとしたら、変に怪しむのも失礼だろう。
私情で連絡がくれば黒だ。
来なければ白だ。
今はグレーだ。
それがハッキリしたら、東條に報告しよう。
今はまだ余計なことは考えないでおこう。
そう思いながらも、圭は洗い物を始めた。
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