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時計の歯車
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あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
時刻を確認すると、もう30分も経っていた。
"気持ちが進まない" 一度そう思ってしまうと不思議と時が過ぎ行くのは早い。
圭は、はぁ。と溜め息を吐き、グラグラと固まっていない決心の中、ベランダにもたれていた体をパッと離し、後ろへと下がった。
するとトンっと背中が何かにぶつかり、ふと聞き慣れた声が鼓膜を揺らした。
「お前はどこまでも強情だな。もう30分も経っているが、やっと今頃謝る気になったのか?」
急な出来事に驚きつつも声のした方を振り返ってみると、ベランダの入口に寄り掛かりながら腕を組み、自分を見下ろしている東條と目が合った。
「東條さん・・・・・」
まさか東條の方からこちらへ出向いてくれるとは思っていなかったために、随分と間の抜けた顔をしていたのだろう。
そんな圭の顔をまじまじと見つめた後、東條はくすくすと控えめに笑い片眉をクイッと上げた。
「俺がここに居るのがそんなに不思議か?それにしても、あれだな。目は腫れているし口は半開きだし、おまえ今、大分不細工だな。顔でも洗ってきたらどうだ?」
あんな事があった後だというのに、からかうような態度と、皮肉ったような東條らしいそんな言葉が胸に響く。
あぁ、やっぱりこの人は自分なんかよりずっと大人だ。
本当に適わないや。
そう思うと先程までは釈然とせずにモヤモヤとしていた気持ちが嘘のようにすぅーっと消え、居てもたってもいられなくなり、圭は自分より何倍もしっかりとした背中に腕を回すとぎゅっと抱き着いた。
「東條さん・・・」
「ん?」
「東條さん。」
そして東條の胸に埋めていた顔をぱっと離し、自分よりも少しだけ上にある整った顔をじっと見つめる。
"なんだ" とぶっきらぼうな返事が聞こえてきたが、そんな返事とは裏腹に東條の声色と表情は優しかった。
「東條さん・・・僕、もう少し人を疑う事を覚えないとダメですね。あの・・本当にっ、ごめんなさい。」
謝罪というのは不思議なもので、一度声にしてしまえば意地を張っていた心をどんどんと素直にしていく。
そして素直になればなる程に、その感情は圭の心をぎゅっと締め付け、自然と涙が溢れ出し止まらなかった。
「本当だ、おまえは人が良過ぎる。もう少し危機感を持て。それに今回は何も無いから許してやるが、次何かあったらこの程度では済まないと思え。」
そして優しく"もう泣くな" そう言うと東條は圭の涙をさっと拭き取った。
やはり何もかもが様になる。
だがそれにしても、東條の性格上こういった場面では根掘り葉掘り詳しく聞いてくるはずなのだが何かがおかしい。聞いてくるどころか、むしろそのような事は一切なく全てを知っているかのような東條の口振りに違和感を感じる。
「・・はい。あの、詳しく聞かなくていいんですか?」
ちらりと表情を伺いながらもそう返事をすると、"あぁ、徹に聞いたからな" と言う答えに、なるほど。とひとり納得をしていると、"おい" と声が掛かり真剣な眼差しが圭の視線を絡め取った。
「おまえの恋人は誰だ」
「・・東條さんです。」
「だったら次からはどうするべきか、分かっているな?」
「はい。」
「言ってみろ」
「・・何か少しでも怪しいと思ったら、すぐに東條さんに報告します。」
「あぁ、そうだ。これからは逐一報告をしろ。分かったな?」
「はい、約束します。」
「あともう一つ言う事があるだろう?」
「・・・なんですか?」
あともう一つなんて、何があるのだろうか。
大方は徹に聞いたと言っていたし、報告の約束もしたのだ。他に思い付く事などない。
ぐるぐると考え込んでいると、ぽんっと一つ圭の頭に思い浮かぶ事があった。
東條は普段、中々気持ちを言葉にする事はない。
だが、圭には何かと言葉にさせる事が多いのだ。
それは不安から来るものなのだろう。
それが絶対そうである。という保証は無かったが、いつもの流れから考えると何となくそのような気がしたのだ。
圭は程よく筋肉のついた身体に回していた両腕を解くと、その手を東條の頬に添え、じっと見つめた。
「東條さん。許してくれてありがとうございます。それと、えっと、あの・・・大好きです。安心してください、僕には東條さんしかいませんから。」
自分からこのような事を言うのには、少し照れがあったのだがしっかりと目を見て伝えると、東條はそれに応えるように少しだけ得意げに微笑み、口を開いた。
「本当に物分りが良くて最高だな、おまえは。流石俺の恋人だ」
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