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86(千春)
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あの校長は とても オトナ。
ベラベラ喋ることもなく 静かに飲んだ。
何をきくでもなく 黙って包み込まれて 俺を優しい眼差しで。まるで見守るように柔らかな何かにくるまれて。
あの校長と話していると何故か肩の力が抜けて 心が穏やかになっていくのを感じていた。
いまだに 女と話すのは 苦手で
バイトの女達から 話しかけられると 何と答えていいのかわからねぇ。
うるせぇな ってありのままの気持ちを言っちゃいけないだろうし。
何も返事をしないのはいけないことはわかる。誰とも関わりたくない って思っても 人は何故仲良くしようって思うのかな?
俺ひねくれてるかな?
こういうとき どうしたら良いんだろうな?
にこやかに答えなくちゃいけない!
って和美なら言うのかな?
無視すりゃ良いんだよ。
って和美なら言うのかな?
適当に返事をすりゃ良いんだよ。
って和美なら言うのかな?
どうすりゃ良いんだろうな。
素直な気持ちなら 誰も俺の側に来ないでくれ。誰とも話したくない。
こういうこともちゃんと自分で考えなきゃいけないんだよな。
でもあの校長は俺の反応に対して何も言わないし。咎めない。答えを強要しない。でも見放すような感じもない。
とても気持ちが楽になる。
あの校長は 俺の心を溶かしてくれる。
俺の気持ちを ほつれた糸を無理矢理引っ張るようなこともしない。
何だろう?
これ。
まるで真弓さんと居るみたいに安心する。
でもそれは
かえって 真弓さんに会いたい気持ちを わき上がらせる。
校長と会うと心が穏やかになるのに 真弓さんに 会いたくて会いたくてたまらなくなる。
そっと
マナーモードになっているスマホを手にしてみる。
それをさりげなく見ている校長。
誰かからの連絡?
それとも誰かにかけようと?
どちらも イエス。
思わず
こぼれた俺の素直な気持ち。
真弓さん 好き。
校長に聞こえたかどうかわからない。
でも ほんのりほほえんだ校長。
涙が出そうになった。
俺は黙って
カクテルをぐいっと飲み干した。
校長が カウンターの向こうのバーテンにお代わりをと 言った。
涙がこぼれそうだ。
しばらくして少し酔った俺と
優しい校長は
別館のバーを出て
右と左に分かれた。
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