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04 ※R18
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薄暗い天井が、ゆらゆらと揺れている。
体育倉庫特有の鉄の錆びた匂いに包まれながら、 必死に胸を上下させた。口を手で塞がれては、満足に呼吸もできやしない。
男子生徒の顔も、髪型も、身長もわからない。突然後ろから目元を布で覆われ、マットレスに押し倒されたのだから。
「ふ……ぅう……!」
「っ……は……」
行為が始まってから、もう一時間は経っているような気分だった。当初は死に物狂いで抵抗していたが、手首を縄みたいなもので縛られてしまうと、恐怖に体を支配された。そこからは、もう男子生徒の好き放題だったように思う。
誰だよ、おまえ!
そう、喉の奥から何度も何度も叫んでいる。
目も見えない。声も出せない。
腹のなかを掻き回され、逃げ場のない苦痛に喘いだ。
「ぅ……!」
拙い律動を続けていた男子生徒が、突如動きを止める。
その瞬間、宙に浮いた脚を抑え込まれ、腹のなかでそいつの性器が震えた。同時に、体内に流れ込んでくる熱い液体。
それが何かわからなかった。だけど本能的に、これはダメだと思った。だから、暴れた。死ぬほど暴れた。
それでも、男子生徒は興奮しているのか、息を荒くさせながら俺のなかに吐き出すのをやめなかった。
わからない。わからないけど、これはいけないことだ。
「葛巻くん……っ」
流れ込んでくる液体は、止まらない。
俺は、訳もわからず焦っていた。
そんな俺に、布越しに男子生徒がしゃべりだす。どこか聞き覚えのある声で。
「妊娠、して」
にんしん? それって、女の人がするやつだろ? なんで俺が? 意味がわからない。
……あれ、そういえば、保健の先生が言ってたっけ。「葛巻くんはまだ中学生なんだから気をつけて」って、どうやって、何を気をつければいいのかわからなかった。
もしかして、俺は今、やばいことをされてるんじゃないのか?
気をつけなければいけないことを、していないんじゃないのか?
「んッ……んぅ、んっ、んっ……」
「くずまきっ……葛巻くん、くず、まき、」
「っふ……、ンンッーー!」
真上から突き刺すような律動。腰を揺さぶられ、奥の突き当たりをトントンと叩かれる。そのままぐちゃりと押し潰されてしまいそうだった。
腹の奥へと出された液体が流れていく感覚。
今更、自分の置かれた状況に気がついて、全身から血の気が引いていった。
さっき、おれ、なかに出された。多分、ダメなやつ。
どうしよ、妊娠すんのか、おれ。
嫌だ。まだ中学生、だし……親に怒られる、し。
やだ。どうしよう。やだ。やだ……。
誰だよ、お前、誰なんだよ……!
「ぁあ……ぅぅ……っ出る、」
どっかで、聞いたことある声。もっとちがう、喋り方してたような。
うわ、やべえ。またこいつの震えてる。また出される。やばい、でも、動けねえ。どうしよ。誰か。誰か、誰か戻って来てくれ。
顧問の先生とか、先輩、とか、友達……。
友達……あれ、そういや、おれ、体育倉庫の片付けひとりじゃなかった。
もうひとり、あいつがいたよな。あいつ、どこにいるんだよ。
……あれ? あれ、
「っう、ぐ……!」
繋がった思考が、またぷつりと途切れる。
どくどくと激しい音を立てる心臓と、同じ間隔で注がれていく液体。暴れようとした脚はガッチリと固定され、今度はビクともしなかった。
どうにか、やめさせないと。そう思うのに、正体に気づいてしまえば、頭が真っ白になっていった。
いや、違う、あいつじゃない。きっと、あいつはトイレにでも行ってるんだ。
そう思いたい。思いたいのに、耳元で時折漏れる吐息が、嫌でもあいつと重なってしまう。
腹のなかに出されるたび、おれの思考は徐々に溶けていく。
違う。そう頭の中で否定するたび、じんわりと涙が浮かんでは目元を覆う布を濡らした。
答えは、とっくにわかっていた。
「はっ……はぁ……」
ずるりと、口を覆っていた手が外れる。
ようやくなかに出されていたものが止まり、腹のなかからソレが抜かれていった。
同時に、なにか、すごくいけないことをしてしまったような感覚と、大切でずっと守っていたものを失ったような虚無感に襲われて、呼吸が乱れた。
吸っても吸っても、肺が膨らまない。そのうち唾液が気管に入って、むせて、吸って、咳をしては空気に溺れた。突然、真っ暗な闇に放り込まれたみたいだった。
そんな、死に際の小鳥みたいなおれを、あいつが黙って見下ろしているような気配がした。それでも、あいつに助けを求める気はさらさらなかった。むしろ、このまま死んでしまいたいとさえ思った。
「はっ、はぁ、は……っ、ぁ、」
「っ仁……」
そいつは、いつものようにおれの名前を呟くと、抵抗するおれの唇を無理やり塞いだ。それは必死におれの呼吸を受け止め、酸素を送っては、また受け止める。
おれはまるで、親鳥から餌をもらう雛みたいだった。
呼吸の乱れは止まった。
しかし、体の震えが止まらない。
おれ、おまえに、なんかしたっけ。
あれか、おまえの彼女バカにしたのが悪かったのか。それとも、お前運動嫌いなのに、バスケ部に誘ったのが悪かったのか。
わからない。おまえとは、唯一秘密を打ち明け合うほど信頼しあった、友達だと思ってたのに。
どうしよう、こわい。こわい。
「仁、俺さ……」
「おれ、にんしん……」
「…………え?」
こわい。どうしよ。どうしよ。先生に相談しなきゃ。こういうときどうすればいいんだっけ。なんか言ってた気がするのに、何にも聞いてなかった。
だって、こんな目にあうとか思ってなくて。
いやだ。赤ちゃんとか欲しくない。こわい。こわい……!
「おれ……おれ、どうしよ……妊娠とかほんと、むり……先生、先生よばないと、せんせ……」
なぜか、こんなに鮮明に状況を思い出せるのに、おまえの名前だけは思い出せない。
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