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ああ、駄目だ。考えたら駄目なのに、昨日のあいつの言葉が頭から離れない。
俺を助ける。どうやって。助けられるのか。俺は、この地獄から抜け出せる……?
「っ…………」
いや、今はそれより、腹が痛くて仕方ない。今日の朝から、妙に下腹部が重い。妙なもん食べた覚えもないし、昨日はおじさんともセックスしてない。
なのに、なんなんだこの鈍痛は……。
教師の眠たくなるような声が遠ざかっていく。授業中、俺が机の上に伏せっていても今更誰も気にしない。それだけが救いだ。
あと五分、早く、早く終われ……!
「お、おい、大丈夫か、葛巻……」
「っ……うるせ……」
「……保健室行った方が……」
うるせえっつってんだろ、ゴマスリ野郎……!!
返事の代わりにそいつを睨んでやると、またいつものように大人しくなる。
気遣うふりして、俺に取り入ろうったってそうはいかない。お前なんか、いつでもターゲットに出来るんだからな。
長い五分が過ぎ、ようやくチャイムが鳴る。授業終了の合図と共に教室を飛び出し、なるべく目立たないように保健室へと走った。
こんな状態じゃ、授業どころじゃない。この腹痛が収まるまで、保健室で休ませてもらうか……。
「あら……葛巻くん。またサボり?」
ノックもせずに扉を開けると、ちょうど生徒は誰もいないようで、保健医の40代くらいのおばさんしかいなかった。
こいつは、いつも形だけの注意をするだけで、余計なお節介はしてこない。ある意味、一番安心できる場所でもあった。
「腹痛いんで休ませてください」
「……珍しいわね、本当にお腹が痛いの? 酷い顔してるわ」
「……ベッド使っていいすか」
「待って。ちょっと来なさい」
まさか、深く突っ込まれるとは思わず身を引くが、真剣に診るつもりなのか力強く腕が引っ張られてしまう。
正直うざったかったが、ここで抵抗する気力もないほど、慣れない痛みで疲弊していたらしい。俺はされるがまま、回転椅子の上に座らされた。
「いつから痛いの?」
「……今朝から」
「変な物を食べたりした? 賞味期限切れの食べ物とか、海鮮類とか。もしくは、便秘が続いているとか」
「いや、別に……。ほっとけば治ります」
「……そうかもしれない。だけど、一つだけ確かめた方がいいことがあるわ」
確かめた方がいいこと? なんのことを言っているんだ?
まさか、俺でもわからねえのに、こいつには思い当たることがあるっつーのかよ。
「葛巻くん、今からトイレに行って来て」
「……なんでだよ?」
「血が出ているかもしれないから」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。
「……は? 意味わかんねぇ、痔じゃねぇし」
「違う。わかるでしょ? 貴方の体は、子供を産めるのよ」
急に、体が地面に沈んでいくような気がした。
嫌だ。考えたくない。
やめてくれ。俺を、地獄の底に突き落とさないでくれ。
「"生理"がきているかもしれない」
違う、そんなわけない!!
そう怒鳴りつけて、目の前のババアを殴ってやりたかった。でも、俺の頭が、既にその答えを知ってる。さっきから下着の中で、どろりと股の間から溢れる液体を感じている。
「……落ち着いて、葛巻くん。貴方の体は女性よりも、うまく子供を産む準備ができないの。HB型は生理がこない人も多いけど、貴方はたまたま……そうなっただけ」
「…………」
「恥ずかしがることはないわ。二つの性別を持てるってことは、どちらの人生を生きてもいいってことなの。貴方の好きなようにーー」
それ以上、聞いてられなかった。
俺の呼び止める声も、チャイムの音も気にせず、保健室を飛び出す。慌てて教室へと戻っていく生徒の波を掻き分け、誰もいない男子トイレへと駆け込んだ。
個室に入り鍵を閉め、そっとズボンと下着を下ろす。ぬちゃ、と気持ちの悪い音とともに、どろりとした血の塊のようなものが見えた。それはとても少ない量に見えたが、尻たぶを伝い落ちる血液が次々と流れ出てくるのを感じて、顔を覆った。
生理なんか……もうこないと思ってたのに……?
ああ、確か、ネットで見た。HB型の8割は生理がこなくて、そのまま一生を終える。その場合の妊娠確率は180万分の1。
しかし、生理が来たHB型の場合、妊娠の確率は……
100分の1。
「はは……」
一気に確率が上がる。100回に1回。自分がそうなっても何にもおかしくない。
いや、このままの生活だと、
俺は確実に……孕まされる。
「っ……うぅ……嫌だ……」
なんで……どうして俺ばっかりこんな目に遭うんだよ……。
生きててもしょうがねえ奴なんか、ゴミみたいにいるだろうが。
「っ……くそ、くそ、クソ!!」
……そうだ。
俺は、まだここで終わるわけにはいかねぇ。不幸なんかじゃない。あんなゴミどもなんかに、可哀想な奴だなんて思われたくない。
こうなったら、意地もプライドも捨ててやる。とにかく、あのおっさんの家から逃げるんだ。
普通の男として生きて、絶対に、あいつらを見返すくらいの人生を、歩んでやらなきゃ気が済まねぇ……!
ポケットから携帯を取り出し、連絡先一覧を開く。
この中で、一番古い連絡先。中学の頃、あんな事をされたのに、なぜかどうしても消すことができなかった連絡先。もし、アドレスが変わってなかったとしたら……。
勇気を振り絞って、3年ぶりにそいつへメールを送った。俺を助けられると言った、紺野ーー花崎荘司に。
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