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暗い部屋
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「やっと起きた」
ぽつりと男の声が響いた。
部屋の中は薄暗く、どうやら自分はベッドに横たわっているようだ。焦れったい視界の中、声の主を探そうと体を動かした瞬間、全身に激痛が走る。
視界だけを動かせば、自分の傍らに男が腰をかけていた。
「大丈夫、動かないで」
男の手が僕の頬をなぞる。姿は暗くて見えない。
「あの、変な事を言うのは承知ですが、」
「自分が誰だかわからない?」
まさに今自分が言わんとしようとしたことを、男は先回りに口に出した。
先程から感じてた違和感。自分が誰なのか分からない。記憶が抜け落ちているのか、部屋の中にある殆どの物が、名称も用途も分からない。
男は言葉を続けた。
「違った?じゃあ体が痛いのは何故か?それともここは何処かとかかな」
「…あなたは僕の事を知っているんですか?」
僕がそう尋ねると、彼は腰を上げて部屋の隅に何かを取りに行った。
暗い部屋の中、目が慣れて来たのか男の顔が見えた。思っていたよりも、線が細く華奢な男だった。
男が何かを持ってきて、僕に差し出す。渡されたのは鏡だった。
「君の事は知らない。俺も記憶が無いんだ。でも俺達、無関係じゃないはずだよね」
どういうことだ、そう思いながらも渡された鏡を覗いた。
その刹那、言葉を無くした。
薄暗い部屋の中だが、仄かな灯で自分の顔立ちがはっきりと分かる。
「これは、一体」
「さぁ。でも美しい顔だ。俺は気に入ってるよ」
鏡に映る自分の姿は、目の前の男と全く同じものだった。
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