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おれは何をしてるんだろう。
保健室のドアを見上げながら、七瀬は思う。
まともに思考回路がまわらない。
なにもかも、自分の経験則、倫理観から逸脱した行為だ。
ーーーだが…
目を閉じると、あつく浮かんで来る、あの顔。
ーーーもう…、うんざりだ。
七瀬は保健室のドアに手をかけた。
ドアはするすると横に開いて行く。誰もいない。
中は静まり返っていた。
さっきの女の子らしき人影もない。
と、不意に奥の方で、人の動く気配を感じた。
声が響く。
「なんだ、また来たのか。
何回言っても同じだぜ。
おれは立て続けの相手はごめんなんだ。
いい子だから、帰んな。」
ベッドカーテンの奥の方から声が響く。
七瀬は、ゆっくりと雨に濡れた足で歩み寄る。
ため息が一つ、くぐもった布越しに聞こえる。
「聞き分けのねぇお嬢様だな、
あんまりしつこいと…」
カーテンを一気に開く。
ダルそうな声が急に止む。
そこには、驚いた顔の御船がベッドにくつろぎながら、片膝を立てていた。
切れ目の眼が、大きく見開かれている。
「やあ、これは…
珍しいお客様だ…。
どういう風の吹きまわしかな、……七瀬。
こんな所で、
そんなずぶ濡れで」
驚いた顔を引っ込め、すぐさまニヤついた表情で、七瀬を見上げる。
身体をこちらに向け、はだけた制服から、首を伸ばし、煽るように七瀬を覗き込む。
七瀬は険しい表情を崩さぬよう、ゆっくり低い声で御船にこたえた。
「…お前こそ、
何をしてるんだ、御船。
もうすぐ、授業が始まる。
何をこんな所で寝そべっているんだ。
さっさと立て」
「何を…?何をだって?」
御船が身体を丸め、くつくつ、と笑い始める。
頭を振り、わずかに
ベッドの上で身をただした所で、
ダークブラウンの前髪をかきあげ、
愉快そうな、それでいて挑戦的な目つきで、七瀬を見上げた。
「とんだ役者だな、七瀬。
分かってるんだろうがよ。その顔は、
そういうつもりで、来たんだろ?
…お前だって、授業なんか出る気はねえんだろう?」
御船はまだ嗤ってる。
この状況が面白くて堪らないとでも言うように。獲物を見つけた獣のように。
その眼は七瀬をを捕らえて離さない。
「……お前は、…いつもこんな事をしてるのか。」
「こんな事って?」
「保健医を、追い出さなきゃならないような事だよ。」
「追い出すとは穏やかじゃないな。
おれはちょっとお願いしてみただけだぜ。
半日だけ、保健室を借りたいってな。
リップサービスを付けて。」
「クズが。」
眉間にシワがよる。それでもまだ、御船は愉快そうに嗤ってる。
「おいおい、委員長の七瀬さまがそんな言葉を使っちゃいけないよ。
それに言葉ってのは、気をつけて使わないと、
自分に跳ね返って来るもんなんだぜ。」
「…どういう意味だ。」
「そんなクズに抱かれに来たんだろ?」
下腹部が、あつくなった。
少しだけ鼓動が速くなる。
落ち着け、落ち着け。
濡れた髪から、雫がひとつ、ほおをすべる。
七瀬は目をつむり、息を吸い込んでから、御船を見下ろした。
「おれは、お前のように…誰彼と構わず遊び回る人間とは違う。」
「でも、そんな人間に会いに来たのはお前だろ?」
ああ、くそ、足が竦む。
「目障りだ。
あの日からずっと、
お前は、おれにとって非常に邪魔な因子だ。
話しかけられるだけで、反吐が出る。」
「これはまた、ひどい事をおっしゃる。」
さして、傷ついてもいない顔で、御船は首を傾げ、目を細める。
ーーーのまれるな。
七瀬は俯き加減で、拳をきつく握り、爪を肌に食い込ませた。
「おれは、お前がどこで何をしようが、
どんな事になろうが、関係ない。興味もない。
だが、おれに妙な言いがかりを付けて、絡まれるのだけは迷惑だ。
あの日以来、ずっと、何か言いたげな……
纏わりつく様な視線を、投げかけられるのも…。
…もう、ごめんだ…。
…だからーーー」
「だから?」
七瀬はグッと、唇を噛み、意を決した様に顔を上げた。
「…全部終いの意味で、
一度だけ……、おれを抱いて欲しい。」
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