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第2章
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図書館は七瀬の休養スポットだった。
家に帰っても家族はいないし、かといって、
友達といつもワイワイ出来るほど、七瀬は社交的じゃなかった。
落ち着いて、かつ、
程よく人の居るこの場所が、七瀬にとって、
何より安心できる場所だったのだ。
テスト期間にはもちろん、それ以外の日も、
頻繁に、足しげくひとりで通っている。
…しかし、
ーーー何故、それをコイツが知っている。
七瀬は目の前に座り、こちらをにこやかな顔で見てくる男を見上げた。机に肘をつき、その上に顔を乗せてジィッと視線を七瀬から外さない。
さっきは、色々とツッコミが間に合わずに、
スルーしてしまったが、よくよく考えておかしな話だ。
「聞いているのか、御船。」
教科書を置き、御船の顔を睨む。
「聞いていますとも、委員長。」
朗らかな声で言う。
「嘘をつけ、さっきから人が、散々、公式や
その用法・用例を説明してやってるのに、
何にも耳に入っていないだろう。」
「聞いてるって。
聞きながら、七瀬の綺麗な顔を眺めてただけだ。」
たまらずため息が七瀬の口から漏れる。
ーーーおれは、なんでこんな事をしてるんだろう。
七瀬が普段使っている図書館の机は、
あまり人気もなく、専門書や、マニアックな蔵書しか置いていないような箇所なので、
滅多に人の来る事もないが、もちろんゼロではない。
知り合いに会わないかどうかは、
もはや、神に祈るしかない。
「…本当に聞いていたのなら、
このページの問題は解けるはずだ。
出来ないなら帰れ。」
「ああ、はいはい。
わかりましたよ、スパルタ七瀬さまの言う通りに致します。
…ただ、」
「…?」
御船が改まった顔で身を正す。
「全部出来たら、褒美にキスしていいか?」
「帰れ。」
何がおかしいのか、肩を震わせながら笑いゆこらえている。
御船は、睨み続ける七瀬に対して、どうどうと、いった身振りでペンを握って、手を差し出した。
「…なんだ。」
「ノート」
「ノート?」
「ノートを貸してくれ。」
「は?」
意味が分からず、しばらくポカンと御船の手と目を交互に見やった。
「ノートがないから、お前のを貸せ。」
「…自分のは?」
「置き勉。」
ーーー呆れた。
それでよく、テスト勉強などと
のたまったものだ。
開いた口が塞がらない。
「…あいにく、おれの数学のノートは一つしかない。
お前に、使わせる気はさらさらない。」
「大丈夫だ、全部正解したら良いんだろ?
ちゃんと、聞いてたから問題ねえよ。
まあ、お前の説明が間違っていなかったらの話だけど…。」
御船がニヤリと口角を上げる。
七瀬は頭を抱えて、目を逸らした。
ーーーああ言えば、こう言う…。
この男相手にはまともな話が通じない。
七瀬はなんだか疲れてきて、投げやりな気持ちで
自分のノートを差し出した。
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