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第4章
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…これは罠だ。
絶対、何かの罠に決まってる。
上に乗る御船を、
身動き取れぬまま見上げて七瀬は何度も言い聞かせる。
ある筈がない。
仮にも遊び人の御船が、男の七瀬に本気になる筈がない。
ーーーそれなのに…。
唇を噛む。
さっきまでのキスの感触がまだまざまざと残っていた。
…どうしようもなく、
胸が高鳴ってしまう。身体が、反応してしまう。
『ーーー好きだよ、智紀』
耳に深い声が蘇る。
あんなのは嘘だ、おれを嵌めて、反応を見て面白がってるだけだ。
これは罠なんだ!
…そう思うのに、どうしても、
心が惹かれてしまう…。
無意識に、もっと、と御船を求め、
手を伸ばしてしまいたくなる。
七瀬はそんな自分をグッと抑え、手の甲で顔を隠し、上に乗っている御船に向かって呟いた。
「お前は…、酷いやつだ。」
「…そうか。」
「…人の気持ちとか、 葛藤とか、
そういうの全部お構いなしに平気で人を傷付ける。」
「俺が嫌いか?」
優しい声音で問いかける御船に、手を外し、そっと視線を送る。
声に違わず優しい顔で見下ろす御船を見て、
七瀬の瞳にまた新たな涙が込み上がってきた。
憎らしいと思う、本当に。
ーーーそれでも、それ以上に…、
そんな御船が、どうしようもなく、
好きだ。
もう、堕ちてしまったのだ。
「……きらいだよ。」
再び、顔を隠し、涙を食い止める。
上で御船がクスリと笑う声がした。
「泣いてばっかりだな、お前は。」
「…誰のせいだ。」
「俺のせいだ。」
「……。」
「七瀬。」
御船が、震えてシーツを掴んでいた七瀬の
もう片方の手を取って、柔らかく囁いた。
「俺はお前が、本当に傷付くようなことはしない。」
「……。」
硬直してしまって何も言えない。
ーーー何が傷付くことはしない、だ。
どの口が言えるんだ…。
七瀬は首をゆるく振る。
それを見て御船は七瀬の額にそっとキスをして、
七瀬の身体からそっと降りた。
予想外の行動に、思わず七瀬はパッと手を外し、御船を目で追う。
傍らに立つ御船は、熱い目線で七瀬を見返した。
フッと笑いをこぼす。
「心配しなくても、今日は抱かねえよ。」
考えていた事を言い当てられ、身体がビクッと動く。
そして、いつの間にか枕の脇に落ちていたタオルを取り、再び七瀬の額に乗せる。
ひんやりとした感触が伝わってくる。
…気持ちいい。
「さっきまでぶっ倒れてうなされてた奴に、
無茶なことはしねえよ。
…それに、どうやらまだ少し、熱っぽいようだしな?」
僅かに意地悪さを含んだ声で、御船が笑う。
七瀬は顔を熱くして、くるりとそっぽを向いた。
ーーーやっぱりコイツ嫌なヤツだ…!
くつくつと、笑い声を漏らしながら、
七瀬は傍らの椅子に、再び座る。
「たが、今日はここに泊まらせてもらう。」
「……っ!」
「お前がまたぶっ倒れないか心配だろ?
だから、今日はここに居る。」
「……。」
「安心しろ、絶対襲わねえから。
…良いだろ、七瀬?」
首を傾げ、背を向けたまま、寝そべる七瀬に声をかける。
七瀬からは表情は見えないが、きっと妖艶な表情で微笑んでいるに違いない。
七瀬は努めて素っ気ない声を出すよう気を張りながら、吐き捨てた。
「…勝手にしろよ。」
また抑えた笑い声が聞こえる。
七瀬の頭に手が乗り、愛しむように、
髪を撫でる。
ーーーいけない。
本当は、この手を振り払わなくてはいけない。
この男を今すぐ、追い出さなくちゃならない。
これは、罠だ。
優しい仕草も、柔らかい声も、甘いキスも、
全部七瀬を陥れるための罠なのだ。
優しくなんてしないで欲しいのに。
どうせ罠なら手酷く扱って見限らせて欲しいのに。
ーーーそれでも…。
少し、ホッとしてしまった自分がいた。
御船が"今日は“抱かないと言ったこと。
正直、身体はまだ怠かったし、今無理矢理にでも抱かれたら、それこそ我を無くして、あらぬ事を言ってしまいそうだったからだ。
それでも御船はここに残り、…そばに居てくれると言ったこと。
胸が穏やかになり、少しの甘さと、
大きな安堵を感じてしまった。
そばに、いて欲しい。
今日は…。今だけでも。
まったく、矛盾だらけの心情に呆れながら、
七瀬は強張っていた力を抜き、おずおずと…、
頭に乗った御船の手をそっと握った。
御船も優しく、握り返してくれる。
「子守唄でも唄ってやろうか?」
「いらない。」
七瀬の手が、更に強く御船の手を握った。
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