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第5章
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売り言葉に買い言葉。
…いや、この場合、七瀬が勝手に宣言したのだからそういう事にはならないが、勢いで馬鹿な事を言ってしまった。
しかし、今の七瀬に冷静に物を考えられる余裕はなかった。
…昨日の夜、
看病の為、泊まってゆくという御船を、ベッドな入れたのは事実だ。
吐いて倒れたと言っても熱はもうそれほど無かったし、接近して寝ても御船が具合が悪くなる事はないだろうと思ったからだ。
それに、椅子で寝ると言い張る御船を、
さすがにそれはあんまりだと感じたのだ。
どうあれ、あの日、御船に助けられたのは事実だ。介抱までしてもらい、落ち着くまでそばにいてくれた。
…正直に言うと、嬉しかったのだ。
あんな醜態を晒して尚、見捨てないでいてくれた事。
ずっとそばにいてくれた事。
告白は正直、まだ嘘に違いないとは思っているが、恩を受けたことに変わりない。
だから、無防備に思いながらも、
せめて風邪を引かぬようにという気配りのつもりだった。
ーーーそれが…。
今朝のこの有様。
「七瀬〜!お前ついに、大人の階段登っちゃったのかよ。」
登校してすぐ、ニヤニヤ笑いながら近寄ってくる只倉の言葉を不審に思い、「何のことだ?」と、眉をひそめると只倉が自分の首を指差した。
「く・び・も・と!
お熱いね〜!随分積極的なカノジョなんだなあ。」
ますます訳のわからないまま、手渡された鏡を見て仰天した。
…情けないことに、その時まで七瀬は、
自分の首元に無数に散る赤い痕にまったく気付かなかった。
昨夜は色々衝撃的すぎて寝つきが悪く、
今朝は珍しく寝坊してしまった。
いつの間にか抱きついて寝ていた御船を殴り起こし、急いで支度し、急いで学校に来た。
くっきりと、肌に痛々しいくらいに鮮明に付けられた痕に気づかなかった自分の迂闊さを呪うと同時に、煮えるような御船への怒りを抱いて
教室を飛び出した。
もちろん、首を隠しながら。
ーーー何が、おれが好きだ!
やっぱり完全からかっているだけだろ…!!
七瀬はシャツを第一ボタンまできっちり留め、
廊下をズンズン歩く。
…こんな痕を残して、長倉の前であんな事をして。
七瀬は。頭に血を上げて鬼の形相を崩さない。
不意に、
さっきの御船の牙の感触と、昨日の言葉が蘇って来た。
さらりと、髪を撫でる大きな手。
『閉じ込めたくなるくらいかわいいよ。』
『ーーー好きだよ、智紀。』
そしてあの熱く力強い歯の感触。
ーーーダメだ…っ!
これも罠だ!全部含めての、罠なんだ!!
立ち止まって頭を振り、
前髪を乱す。
人の気も知らないで…。
あんな風に、甘い言葉なんかついて…。
優しげな顔なんかみせて。
こうして思い出すだけで、身体の芯が熱くなる七瀬の状態も知らないで。
きっともし、
七瀬の本当の、奥に潜めた気持ちを勘付かれたら、
御船はためらいなく、笑いながら、
七瀬を捨てるだろう。
御船は物珍しく、強情に拒み続ける七瀬だからこそ、
今構っているだけなのだ。
そうでなければ、その他大勢になり、
御船はあっさり、七瀬から興味をなくすに違いない。
胸が苦しくなる。
ーーー好きだ…。
おれは、本気で、
御船が好きなんだ…。
だから、
ーーーだからもう、惑わせるような事はやめてくれ…。
もうこれ以上、おれの心をかき乱さないでくれ。
胸のシャツを握りしめ、七瀬は目をつむった。
鼓動が落ち着くのをまつ。
するとそこに、唐突に声がかかった。
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