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第5章
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「七瀬くん。1年3組の委員長の、
七瀬智紀くん。」
再び鬼の形相で振り返り、
その呼びかけた相手が予想外の相手で一瞬
七瀬の顔が引きつった。
ーーーこの人は…。
きちんと整った制服、短くなめらか黒髪、
茶色い縁のメガネ、さわやかで端正な顔立ち。
ーーーこの人は確か…。
「会長…。」
生徒会長の八代 敏明(やしろ としあき)だ。
学校一の模範的生徒であり、学年を問わず女子生徒の注目と人気を集め、親衛隊なるものまで存在する有名人だ。
七瀬は慌てて身をただし、表情を緩めた。
何度か集会で見た事はあるが、
こんな至近距離で見るのは初めてだ。
思わず身体が硬直する。
「やあ、いきなり呼び止めてごめんね。
今ちょっと時間良いかな?」
八代は七瀬に向かってさわやかに笑う。
「い、今ですか?
構いませんけど、おれに何か…?」
初めて話す八代にやはり緊張する。
八代はくるりと踵を返し、七瀬を手招く。
「うん、七瀬くんに。
今朝からずっと探してたんだ。
大丈夫、何も身構える事ないよ。会長室で
少し話せない?」
いきなり会長室に呼ばれて身構えるな、という方が無理な話だが、七瀬は断ることも出来ず、
素直に頷いた。
八代はまた笑い、七瀬を連れて会長室へと向かった。
頭に上っていた熱が一気に冷めたような気がする。今は逆に身体が冷え冷えして居心地が悪い。
広く清潔に整えられた会長室に足を踏み入れ、
椅子をすすめられながら、七瀬は少しバツの悪い思いを感じた。
さっきの今ですごい落差である。
七瀬の座る椅子の
向かいの机の椅子に腰掛け、八代は話を切り出した。
「…さあ、七瀬くん。
いきなり連れ込んでしまってごめんね。
実はもうずっと前から君に聞いてもらいたい話があって。」
「…何でしょう?」
「実は君に、生徒会に入って欲しいと考えている。」
「は?」
なにかの聞き間違いかと思い、思わず素っ頓狂な声を出す。
目を見開き、目の前の八代を穴のあくほど見る。
「何かの、冗談ですよね…?」
「まさか、僕は大真面目だよ。
先の生徒会でもその事を議題に挙げたばっかりだ。」
…なんと。
自分の知らぬ間にとんでもない事になっていたらしい。
「…大変、有難いお話ですが、
お断りいたします。」
「おや?驚いたな、即決かい?」
「はい、おれには身に余るお話です…。」
本心だ。
自分はそんな学校を代表するような生徒にはなれない。
「身に余る?どうしてかな?
君は成績も常に優秀で、素行も良く
クラス委員も務めるクラスの人気者じゃないか。」
「クラス委員長と生徒会役員では責任がまるで違います。…それに、おれがクラスに馴染めているのはクラスメイトがみんな親切だからです。」
「驚いた!君は随分謙虚なんだねえ。
…しかし、クラスメイト“みんなが”と言うのは、
ちょっと良く言い過ぎじゃないのかな。」
自分の手元に目を落としていた七瀬が顔を上げる。八代の口角が更に上がる。
「御船 徹くんて、
確か君のクラスの生徒だったよね?」
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