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第6章
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『泊まり込みで世話をする。』
と、言い張る御船に必死で首を振り、
それだけはダメだと譲らない七瀬を見て
御船は渋々承知した。
そのかわり、キッチンを借りたいと言うので
構わないと返すと、驚いたことに、
御船はおかゆを素早く作って、寝室に持って来た。
ーーーいや、別に熱は無いんだが。
ポカンと湯気をあげるおかゆを見つめていると、
トンとその隣に水が置かれた。
不覚にも、
本当に不覚にも泣きそうになった。
「食え。朝からろくに食ってねえだろ。」
時計を見ると、もうとっくに昼を過ぎていた。
言われてみれば、今朝はバタバタしてて、
何も食べていない。そして予期せぬ運動を強いられたせいで身体はへとへとだ。
出しぬけにお腹が鳴る。
「それ食ったの見届けたら、
ちゃんと帰るよ。」
御船は笑いながら、椅子に腰掛けた。
七瀬は顔を赤くしながら、誤魔化すように皿を取り、そえられたレンゲを取った。
優しい眼差しを始終感じて、
くすぐったい。
あたたかいおかゆを、ゆっくり口に入れた。
シンプルな味付けだったが、今の七瀬にはとても優しく感じた。
ーーーバカだ。これでは、きっと御船の思う壺だ。
しかし、やはり嬉しかった。
気まぐれでも、
この熱いくらいのおかゆも、
見守ってくれている御船も、
七瀬の涙腺を壊すには充分だった。
「今日はよく泣くな。」
「…うるさい。」
ーーー何だって言うんだ、この男は。
「そんなに美味かったか?」
これ以上、おれを惚れさせてどうする気だ。
泣かせているのはお前のくせに。
「…うるせぇよ。」
若干、しょっぱくなってきたおかゆを
もくもくと食べ続け、御船の方を見ないように、
ひたすら俯きながらレンゲを動かした。
やがて、空になった皿とコップを取って、御船が台所に消えた。
しばらくしてからまたひょっこり顔を出す。
「何か足りないものはねえか。」
「足りないものってなんだよ…。」
「水とか、薬とか、俺とか、俺とか。」
笑えないギャグだ。
「ない。」
顔を背ける七瀬に御船がくつくつ笑う。
「…けど、」
「うん?」
「ひとつだけ、頼みがある。」
寝室のドアにもたれる御船に、こちらへ来るよう促す。
御船は少し眉を上げながら、ベッドに近づいてきた。
真横まで来たところで、
襟元を両手でグイと掴み、御船を引き寄せる。
「…っ!」
御船の唇に自分の唇を強引に重ねる。
さすがに舌を入れる事までは出来なかったので、
そのまま光の速さで離れ、顔を御船のシャツに埋めた。
そして、蚊の鳴くほど小さな声で、呟いた。
「……ありがとう、御船。」
お礼を言うのは二度目、しかもどちらもこの部屋でだが、今この瞬間が一番緊張した。
心臓がバクバクうるさく鳴っている。
布団を握り締める手の汗が酷くなる。
きっと自分の顔は今、ユデダコよりも真っ赤に違いない。
ーーー恥ずかしい…。
何か、何か言って欲しい。
御船は石のように黙り込んで動かなかった。
いつものように、笑うことも、からかうこともしない。だんだん不安になってきた。
「御船…。」
あまりに静かなので、思わず顔を上げる。
そして、七瀬自身も固まった。
御船の顔が、いままで見たことのないくらい
驚きに固まっていた。
目を見開いて、どこか呆けた顔で
七瀬をじっと凝視している。
「み、御船…。」
「七瀬。」
そして、その顔が少し、
ほんのすこしだけ…、
泣きそうに歪んだ。
「七瀬…。」
そしてガバリと抱きしめられ、肩に顔を埋められる。その腕も、やはりわずかに震えていた。
そして、掠れた声で、
「…やっぱり、バカだ、お前は。」
ゆっくり顔をあげて、そのまま、
「好きだ…、智紀。」
息を止めた七瀬にそのまま、
濃厚なキスを落とした。
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