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第8章
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御船の切羽詰まった息が、耳朶にかかった。
七瀬は思わず顔を歪め、切なくなって、
その大きな背中に手を回してしまいそうになった。
ーーー御船、御船…。
御船の体温が熱く伝わってくる。
七瀬は彼のシャツに顔を埋め、その心音を感じる。
御船の心臓も、七瀬に負けず劣らず、荒々しく脈打っていた。
ああ、自分は今、たしかに御船の腕の中にいるのだ。
夢でない、本物の御船が、今目の前にいる。
震える手が、小さく、御船のシャツに触れようとした。
その瞬間、
上からふって来た、強張った声が、
それを止めた。
「七瀬…。」
御船の手が、七瀬の後ろ首に触れる。
そして、間を入れず、
素早く、七瀬のネクタイを外し、第一ボタンと第二ボタンを外して行った。
あまりの速さに、七瀬はろくな抵抗も出来ず、されるがままに、身体を強張らせた。
御船の手が、襟元を開く。
「何だ、これは…。」
御船の愕然とした声が響く。
晒された肌には、大きな青黒い痣と、
以前御船がキスマークをつけた場所に刻まれた、
煙草の痛々しい燒け痕が、今も無惨に散らばっていた。
七瀬の顔から血の気が引いてゆく。
喉がカラカラにかわいた。
「ちが、…違うんだ、御船、これは…、」
御船のまとっていた空気が変わった。
「ーーーもういい、黙れ。」
殺気をまとった声で、低く七瀬を遮る。
そのあまりの鋭さに七瀬の足がすくむ。
いやだ、いやだ、というように
七瀬が首を振る。
「…とにかく今日はもう帰る。
話はそれからだ。来い。」
「い、いやだ、やめろ!御船…っ、」
ダァン!と、御船の拳が、
七瀬の真横の壁を殴った。壁はへこみ、パラパラと破片がはがれ落ちる。
「抵抗するなら、力尽くで連れて行く。」
御船の声は恐ろしく冷たかった。
七瀬は震えながら、なおも首を横に振る。
「いや…、いやだ御船、頼む、やめてくれ…。」
ズルズルと、壁をつたい、七瀬は床に座り込む。
怒りと憎悪に染まった御船の顔を、息を詰まらせながら見上げる。
「俺はお前が庇う"誰か”と違って、お前を殴ったりはしない。だが、
今俺の言う事を聞けないなら、お前を縛り上げてでも連れて行く。」
御船は自分のネクタイを緩め、スルリと抜き取り、七瀬の前に屈み込んだ。
七瀬は悲痛な叫び声を上げて、必死に後ずさろうとした。
「御船…っ、御船…!嫌だ、やめてくれっ」
しかし、この狭い個室に、七瀬の逃げる場所なんてない。
「七瀬、あんまり大きい声を出すようなら、口も塞ぐぜ?」
「…っ、ぃ、ぃやだ、嫌だ、御船、頼むから…。」
こらえきれずに涙を流し、七瀬は哀願した。
ここを連れ出されたら、それこそ全てが水の泡だ。
しかし、御船の表情は変わらなかった。
御船の手が七瀬の手首を取る。
マズイ、と思った七瀬は、とっさにズボンのポケットを探った。
…と、その瞬間、
ヴヴヴヴヴ…。
「…あァッ!」
「七瀬?」
ーーーマズイ、まさか、
まさか。
身体の奥から振動が響く。
身体をガクガク震わせながら、七瀬は背中を丸めた。目を見開き、恐怖に表情が凍る。
様子が一変した七瀬の顔を、御船は訝しげに覗き込んだ。
「おい、どうした?七瀬…。」
背中に御船の手が回る。
さするように撫でられて、七瀬の身体がピクンと跳ねた。
「…あ、あぁっ!」
「七瀬…。」
「あ、あ、なん、でもないっ、ん、」
必死に口をつぐもうとしたが、もう遅かった。
御船の手が、七瀬のベルトにかかる。
「やめろっ!やめろ、御船!!それだけは…っ」
それだけはダメだ、と慌ててその手を止める。
「七瀬、放せ。」
「ぃ、やだ、だめだ…!それだけは…、」
「いい加減にしろ。」
御船が声を荒げて、七瀬を壁に押し付けた。
七瀬の喉がひゅ、と鳴る。
七瀬の手首を両手で拘束しながら、御船は七瀬を睨んた、
「いつまでしらばっくれてるつもりだ、あ?
お前は、本気でこの場を切り抜けられると思ってんのか?
俺から逃げられると、本気で思ってるのか?
だとしたら、お前は本物の大馬鹿だ。」
「…っ!」
言葉に詰まる。
涙が後から後から溢れてくる。
ーーー分かってるよ。
そんなことは分かってる…。
お前が簡単にそれを許してはくれないという事も。
お前が本当におれを心配してくれているという事も。
ぜんぶ、分かってる。
だけど、ダメだ。
おれだってここは譲れない。
どうしても、振り切らなきゃならないんだ。
七瀬はなんとか振動に耐え、御船の手を離そうと、必死にもがいた。必死に暴れて、ローターの動きに身悶える。
御船は呆れたように、
ますます苛ついたように力を強めた。
「この馬鹿が。」
不意に、フッと唇が塞がれる。手首を掴む力とは同様に、強く、強引な温度で、七瀬の口内を、暴くように開いて行く。
「…んっ、ぅ、ん!ぁ、」
七瀬は身をよじり、逃れようと試みるが、
所詮無駄な抵抗だった。
あまりに深い口付けに、力がだんだん抜けて行く。
前立腺を刺激するローターと相まって、
七瀬の中に次第に熱が溜まってきた。ビクビクと身体がしなる。それでも、御船の口付けは止まらなかった。
酸欠状態になり、涙を滲ませ、
壁にもたれかかる七瀬を更に追い詰めるように、
深く舌を絡める。
顎を上げさせ、強く舌を吸われた瞬間、
七瀬の中で快感が弾けた。
「ん、ぅっ、んーーー!!」
身体を痙攣させ、ズボンの中で熱を吐き出し、
ガクン、と倒れる。
それを御船が抱き込み、しっかり受け止めた。
ようやく、口が離され、七瀬は空気を求めて喘ぐ。
「はっ、ぁ、ぁ、ん、っう」
「ちょっとは思い知ったか?」
ぐったり息を吐く七瀬に、御船が言い放つ。七瀬はそんな御船を恨めしく睨みながら、
しかし同時に、胸を熱くした。
随分、懐かしく感じたのだ。
この強引な口付けも、
強い抱擁も、
全部全部、痺れるほどに、七瀬が待ち焦がれ、
渇望したものだった。
この五日間、夢にまで見たものだった。
切ない疼きが胸を満たす。
「あ、ぁ、み、ふね……」
ーーー好きだ、好きだ。
「…うん?」.
御船の声音がふと、甘くなる。
七瀬はその声に、刺激とは別の涙がせり上がってくるのを感じた。
「あ、み、ふね、みふね…、」
先程と違う、優しい瞳が七瀬を見下ろしてくる。
七瀬は嗚咽を漏らし、涙をこぼした。
「お、れは、…おれーーー」
荒い息を吐き、御船に縋りつこうとした時、
ドアの向こうから、聴き慣れてしまった、
不吉な声が聞こえてきた。
「なーなっせくん、こんなとっころで、なーにしてんの?」
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