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第9章 side 御船
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扉を蹴破り、部屋に入って七瀬の姿を確認した時、御船の身体に稲妻が走った。
脳が痺れるようによじれ、視界が赤く染まる。
一瞬で言葉も失った。
椅子にゆったりと座る、
八代の膝の上で、後ろ手を縛られ、
ぐったりしたように拘束されている七瀬を見た瞬間に、真っ先に八代のその顔に弾丸を打ち込みたくなった。
ーーー殺してやる、必ず殺してやる。
七瀬は、御船を見た瞬間に涙をこぼし、
苦しげな表情が、どこか安心したように緩んだ。
その表情の変化に御船の胸も熱くなる。
しかし、その首元に目をやった後、
また視界が赤く滲んだ。その白い、細い首には
まるで無数の細い蛇のように赤黒い指の絞め痕が巻き付いていた。
その蛇の先には牙のような爪痕が赤い血をのぞかせている。
御船はもう殺意一色に染まり、一歩足を踏み出した。
「ぼくのことは、覚えているかな、御船くん?」
途端声がかかる。
明るく朗らかで、陽気な声。
御船が今、一番捻り潰したいと思う声が。
「…ああ、今思い出した。」
ーーー本当にようやくだ。
頭の中で全ての疑問のピースが繋がった。
コイツは以前に、抱いた事がある。
もう随分前の話だ。御船がまだ、“遊び人”だった頃、他の大多数の人間同様、誘われたから流れのままに抱いた。もちろん、一度きりという条件付きで。
御船にとっては、“噂”の一貫で、それ以上でもそれ以下でも無かった。以降は多分に漏れず、興味も関心も示さなかった。
本当の“目的”は、八代なんぞを超えた、もっと、その先にあったのだから。
八代もしばらくはしつこく纏わりついてきたが、
終始一貫して変わらない御船の態度に肩を落とし、その後キッパリと身を引いた。
…はずだった。
だが、今、その男は目の前に座っている。
御船の一番大事な、心臓より尊い身体を抱きながら、悠々と御船を見上げてる。
まるで見せつけるように、その長い腕を、
弱りきった身体に絡みつけ、抱きしめている。
ーーー触るな…、触るな…。
そいつに触るな。
それは俺の…、
俺の心臓よりずっと重い…、
今すぐにでも、飛びかかり、
その薄ら笑いを潰した後で、奪い返し、
弱りきったその身体を抱きとめたかった。
しかし、出来ない。
その細い首に当てられている鋭く光る物が、
それをさせてくれない。
喉まで怒りの吐き気がこみ上げる。
自分の無力さに目眩すら覚える。
八代がくすくすと笑った。
「連れないなぁ、なんて冷たい男だろう。
そんなんだから、今彼がこんな状態になってるんだよ。ねぇ、七瀬くん?」
名前を呼ばれて、七瀬はハッとしたように俯き、身体を反らした。
よく耳を凝らすと小さいバイブ音がまだ響いている。七瀬の顔がまた泣きそうに歪み、悩ましげに身体をよじった。
御船はまた一歩、殺気を込めて足を踏み出す。
「おっと、動かないでくれよ?
これがどういう意味か、分からない君じゃ無いだろう?」
ナイフが更に、七瀬の喉元に押し当てられた。
御船の動きがピタリと止まる。
忌々しい思いを存分に込めて、御船は唸った。
「正気か、そんな事すれば死ぬのはてめえだぜ?」
「へぇ、君がぼくを殺してくれるの?」
この状況で?と、高らかに、八代の笑い声が響く。喰い千切れる程に唇を噛んだ。血の味が広がる。
「…てめえの目的は俺だろ?
だったら、俺を殴るなり刺すなり、かかってこれば良いだろうが。今すぐ、
そいつから手を離せ。」
「君を殴る…?ぼくが?」
くすくす笑いながら、八代がナイフを弄ぶ。
「とんでもない。ぼくは君を傷付けたいなんてこれっぽっちも思っちゃいないよ。ただ君が、あまりに連れないんで、ちょっと遊びたかっただけさ。」
ーーー遊び?
「へえ?」
ーーーふざけるな、
殴りたい。今すぐこの男を殴り倒し、地の底へ叩きつけてやりたい。
しかしダメだ。あのナイフをどうにかしない限り、そんな真似はとても出来ない。
この男は完全に狂ってる。
冗談でなく、本当に七瀬の命まで奪っていきかねない。それはダメだ。それだけはダメだ。
ーーーなんとか、なんとかあのナイフの矛先を変えないと。
御船は怒りを拳に込め、それを抑えるように壁に手をつく。
「遊びにしちゃ随分危険な火遊びだなあ、会長さん。…俺は言わなかったか?」
低く低く、唸るように、声を絞り出す。
「一度抱いた相手は構わない、と、
そう言わなかったか?」
「例外もあったみたいだけど?」
「…本命以外には、とも言ったはずだ。」
八代の目が急に冷ややかになった。
机に置いてあったリモコンのような物に手をかざす。
七瀬の身体がビクンと跳ねた。
「…この子がそうだって言うのかい?」
「そうだ。」
その一言に、七瀬が涙を流す。
ーーー泣くな…、泣くな、
絶対、助けてやるから。
また何度だって同じことを言ってやるから。
「…へぇ、でもそんな価値、この子にあるかなあ?」
八代の手が机の上のリモコンのボタンを押した。
途端、七瀬の身体が大きくしなり、叫び声を上げる。
「ッああああああ!!」
恐怖と快感の悲鳴に、同時に御船の身体にも激痛が走る。
怒りのせいで視界がぐらつく。
叫び声がキリキリと御船の心臓を締め付けた。
思わず身を乗り出すが、今もナイフはしっかり、
七瀬の首元から外れない。
ーーー野郎ッ、あの、野郎…!
七瀬の身体は八代の膝の上で、懸命に暴れているが、それすら押さえ込むかのように、
八代が七瀬に覆い被さる。心臓がまたズクリと痛む。身体が燃えるように熱い。
ーーーやめろ。
八代が七瀬の耳元に囁いた。
「ホラ、いけないよ、七瀬くん。
しっかり御船くんにも見てもらわなきゃ、
君の本当の姿を。」
覆い被せた身体を強引にあげ、七瀬に上を向かせる。
「やめろ!!」
憎悪のあまり、拳が震える。
こんなの自分が袋叩きにされた方が百倍マシだ。
リンチでもなんでも、自分の身体で痛みを受けた方が、
百倍マシである。
そんな御船の様子に、八代は笑みを浮かべ、暴れる七瀬を更に抱きしめる。
「そんなに怒る事ないだろう?御船くん。
これは七瀬くんが、望んでしている事なんだよ、」
ーーーやめろ、
「ねえ、七瀬くん?」
「あ、あっあああ、ぅう、」
「ふざけるな!今すぐ止めろ!殺されてえのかてめえ。」
ーーー恨むなら俺を殺しに来い。
「七瀬くん。」
八代の手がリモコンから、七瀬の喉の上に移り、爪痕をなぞる。
あやすような、催眠をかけるような声で七瀬の耳元に囁く。
「御船くんに向かって言ってごらん。
これは、ぼくが望んでした事ですって、
突然いなくなった四日間も、実は影で、
こういう事強請ってたんですってね。」
「てめえ!良い加減に…
「「七瀬くん。」」
七瀬の身体がビクッと震えた。
恐る恐る、後ろを振り返り、八代を見る。
そして、涙を流しながら、
息も絶え絶えに、喘ぎ喘ぎ、言葉を紡いだ。
「あああ、っん、お、おれは…、これは、おれが、
ぁあっ、のぞん、で…、のぞんで…、」
「七瀬。」
ーーー七瀬、いい。
御船が首を振る。
「良いんだ、お前は、何も言わなくていい。
ソイツの言うことなんか、何も聞かなくて良い。」
快感に震える七瀬に優しく声をかける。
お前は何も悪くない、何も言いなりになる事なんかない。
そんな想いを七瀬に送る。
七瀬のくねりが一瞬止まった。
相変わらず泣きそうな顔で、切なそうに御船を見つめてくる。
御船、と口を動かしかけた瞬間、
その身体がグンと後ろに引っ張られた。
再び縛り付けるように強く腕を巻きつけられ、
ナイフで、その顔をグイと上げる。
「ああああッ…!あっあっ、あっ、ヒィ…あっ」
「いけないね、御船くん。
この子の話を遮っちゃ、七瀬くんは本当に喜んでいるんだよ?ほら、見てごらん。」
八代はガサゴソと、ナイフを持ってない方の手を
七瀬の下に滑らせて手をしきりに動かした。
七瀬はまた身体が跳ねさせ、七瀬は助けを求めるように天を見上げ、大きく喘ぎ声を上げた。
無意識のうちに七瀬がしきりに腰を振る。
「あっあっ、あああッ!」
「ほら、どうだい、御船くん?
君の愛しい七瀬くんがこんなに喜んでるよ。
啼きながら、もっともっとって強請ってる。」
吐き気がこみ上げる。
「てめえ…、本当に、後で殺してやる。」
御船は爪を立てて自身の肌に傷を作る。
身体中から熱を放ち、呻く。
「君が知らないだけで、彼はずっとこうだったんだよ?」
七瀬の身体を抱きしめていた手がやんわりと、身体中を撫でてゆく。
七瀬のしなりが酷くなり、目を見開きガクガク震えながら、八代の肩に頭を置いた。
八代が悪魔の顔で、更に高い声をあげて愉しそうに笑った。
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