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キスマーク
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絶対許さない。
こともない。
けど。
『ねぇ、ごめん。
お願い。こっち向いて?』
俺には、お腹を触るクセがある(らしい)。
確かに、言われてみれば、よくペタペタと触っている。
こっち向いて?と言ったくせに、自分が正面に回り込んでくる。
お腹を触ったら見えるとわかっていて、見られたら俺が上手くごまかせないこともわかっていて。
紬さんは臍の右下あたりにキスマークをつけていた。
『どこ行くの?』
「……………。」
なんとなく声を出せなくて。
黙ってトイレに逃げ込む。
本当はもう許して、紬さんの胸に飛び込んでしまいたい。
でも。
紬さんの狙い通りに友達にからかわれて。
上手くごまかせなくて。
その時に沸き上がった苛立ちを鎮める術が見つからない。
深呼吸をして、トイレを出る。
「プリン買いに行ってきます。」
キスマークをつけた紬さんへの苛立ち。
上手くごまかせなかった自分への苛立ち。
いつまでも苛立ちを鎮められない自分への苛立ち。
『一緒に行ってもいい?』
自分でもどうすれば良いのかわからず、無理矢理に切り替える以外に浮かばなかった。
「…………はい。」
本当は1人でゆっくり歩いて落ち着くつもりだったけど。
早く謝って。
仲直りして。
紬さんに触れたかった。
「…………………。」
『…………。』
紬さん、すみませんでした。
心の中では何度も繰り返しているのに、声にはならない。
あの電柱を越えたら。
あの人とすれ違ったら。
あと20歩歩いたら。
15分弱かかるはずのコンビニに着くのはあっという間だった。
『決まった?』
「はい。」
応えると、手にしていたプリンが攫われていく。
「ぁ…ぁ、あの。」
軽快な音楽に送り出された後。
決意が揺らがない内に。
なんとか声を出して呼びかけた。
『………ん?』
少し驚いた後に、返事が返ってくる。
終始無言だったのだから仕方がない。
「すみません………でした。」
呆れられたか。
プリンで釣られたと思われたか。
いつもよりほんの少し離れた距離。
『なんで直が謝るの?』
応えはYesかNoで待っていたのに。
違う応えが返ってきて一瞬戸惑う。
「だって、ずっと機嫌治せなくて。」
『あぁ、それで、プリンだったの?』
優しい年上の微笑みに囚われてしまう。
「…………はい。」
すぐにバレてしまったのが恥ずかしくて悔しくて、ごまかそうと思索するが、諦めて素直に頷く。
『直、ごめんね。』
「はい。もう、大丈夫です。」
『よかった。ありがとう。』
改めて見ると少し疲れたようなその笑顔に申し訳なくなる。
「プリン、ありがとうございます。」
『いいよ。キスマークのお詫び。』
「じゃあ、許してあげます。」
『ありがとうございます。』
いつもの少し砕けた会話に戻り、心が軽くなる。
触れたい。
紬さんの指先に手を伸ばす。
中指と薬指の先を自分の指先で緩く挟む。
半歩後ろを歩く自分の方向に軽くすくい上げると、従順に従ってくれる。
「でも、なんであんな所に付けたんですか?」
指先を転がして弄ぶ。
解決した話を再び持ち出すのはマズかったかもしれない。
後悔して、様子を窺う。
『ん~。綺麗な腹筋だなぁと思ってて。
キスマークが見えたら。
こう、なんか……………っくるなぁって。』
俺の心配をよそに、楽しそうに話す。
「………なんか……………変態みたい。」
本心からの言葉に間違いはない。
無意識に紬さんの手の甲に。
小指と薬指の間あたりに。
自分のキスマークが付いている様を想像してしまう。
弄んでいた指先を深く引き寄せ。
口づける。
『どうしたの?』
狙い通りの場所にできた鬱血痕に満足して、再び指先を弄ぶ。
「プリンのお礼です。」
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