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ただいま続
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ドアを開けると炊飯器の匂いがして、食欲がムクムクと湧いてきた。
だが同時に、このベタベタした汗を先に流してしまいたいとも思う。
「おじゃましまーす。」
頭を悩ませながら紬さんに声をかける。
『おかえり。』
テレビを見ていた彼が応えてくれた。
この炊きたての匂いが逃げてしまう前に味わいたいが、不快な状態でいることの方が躊躇われ、すぐにシャワーの準備を始めた。
『直。』
振り向き、首をかしげる。
『おかえり。』
「………………。」
どうしたんだろう。
さっきも聞いたし、改めて言うことでもない。
『おかえり。』
何を求められているのかわからない。
再び首をかしげて見つめてみる。
『“おかえり”って言われたら“ただいま”って応えるんだよ。』
あぁ、そういうことか。
「っ……………。」
あれ?
口を開けたまま固まる。
“ただいま”なんて使った記憶がない。
誰に言ってたっけ?
『直?』
あれ?
覚えてない。
どうしよう。
なんだか焦りと混乱でぐるぐるする。
「あっ……う…………。」
言おうと試みるが声が出ない。
ただ口をハクハクと動かした。
どう言うんだっけ?
なんで言えないんだろう?
どうしたらいい?
パニックで呼吸も浅くなり、泣きそうになる。
『直、おいで。』
体が動かない。
「っ……あっ…………。」
紬さんに腰を引き寄せられる。
呆然とその力に従うと、紬さんの膝に向かい合って乗せられた。
『ごめんね、大丈夫。言わなくていいよ。』
優しく腕を回され、背中を撫でられる。
「ここ………紬さんの、家……。」
やっとの思いで出た苦しい言い訳。
『うん、そうだね。』
目尻に軽く口づけられ、そのまま上半身を預けるように促される。
『じゃあ、もう、一緒に住んじゃう?』
肩口に預けた頭を撫でながら冗談交じりに問われる。
「一緒に住んだら、言えるようになるかな………。」
『ねぇ、俺に腕回してぎゅってしてくれる?』
そろそろと腕を持ち上げる。
なんだかあまり力が入らなかったが、そっと彼を締め付け、シャツをぎゅっと握る。
『ありがとう。』
耳元で紬さんが笑った気配がした。
『“ただいま”って言わなくても、それで十分だよ。“帰ってきたよ”って。』
「……帰って………きた…よ。」
“居てくれて、ありがとう。”
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