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「」
「」
「」
大きくて少し埃っぽい部屋へ案内されたサランは持ってきた自分用の荷物がすでに部屋に置かれていることに気づいた。
「…お母様、お父様…
お二人のお顔合わせはあのようなものだったのですか?
…っ、サランはとても寂しい気持ちでした…」
侍女たちが出て行ったのを確認し
王とのやり取りを思い出した。
『顔を上げろ』
『…っ』
顔を見たときは、まだ希望に満ちていて、王の男らしく、しかし美しい容貌と声に釘付けだった。
『お前は我の十人目の正室だ。ソアからの長旅ご苦労。まだ世継ぎが生まれていない。今日からは我の子を産むためだけに生きろ。わかったか?』
『えっ…は、はい』
恥じらいながら進むものだと思っていた会話は、一方から言われただけで終わりそうだった。
しかも嫁入りした者は自分が初めてではない、と言われてしまえばはショックを受けざるを得ない。
ぐるぐると混乱しつつも言葉の意味を理解しようとした。そのときだった。
『』
『えっ?』
『』 『』
『なんて…?』
小さな体がふるふると怯えている様子を楽しげに見た王、だけでなく側近は何かを口々にしたではないか。
ソアでは使われない古代語で。
くすくす、と笑う声に
サランは唖然とした。旦那様との会話が素敵なものになる…なんていう夢がボロボロと崩れていった瞬間だった。
『わ、私はソア国から参りましたサランです。…よろしく、お願いします…』
挨拶だけは、しっかりやろうと意気込んでいたのに。
「っ、泣いてはいけません…グスッ…こんな弱虫はソア国男児としてあるまじきことです」
サランは自分を励ました。
けれど、やはり少し寂しくて…
床も壁も白く、天井の高い部屋。
ベッドと備え付けの本棚以外は何もない。ぽつん、と残された感じ。
廊下から聞こえてくる侍女たちのお喋りだけが聞こえる。
「(…なんと言われているのかしら…王に見向きもされない花嫁など……)」
気晴らしにでも空を見ようと思い、窓際へ寄ることに。
そこにはソアでは見たことのない景色が広がっていた。
「こ、これが大国ハーシュッド…ですか。とても大きく、なんて立派な街並みでしょう…」
計算された家の配置はもちろん、白亜の建物で統一されたそれは、サランを圧倒させ、またその広大さに感動を与えた。
「ちゅんちゅん」
「あら?」
窓を開ければ小さく可愛らしい桃色の鳥がサランの指へとまった。
「…わたしを元気付けてくださっているの?ふふ、ありがとう」
昔から動物に大変好かれていたサランは、国が違えど愛される性質は変わらないようだ。
「あなたはどこから来たの?わたしはソア国です。…え、」
サランが問うてみれば鳥は返事をするように羽をバタつかせとある方向に顔を向けた。
「あそこの森?ふふ、とてもたくさん大樹があるようですね。ソアでは見たことがない木です…なんて豊かな国なのでしょう……」
街の中にも一定の間隔に木が植えられていた。生い茂る木々の緑と白の家。家と並行して流れる小川。美しい景観。
「…ソアと比較してはなりません、なりませんのに…わたしは未熟者です…。せっかくあなたが励ましてくれたのに、思い出してしまいました…でももう泣きませんわ。どうもありがとう鳥さん」
コンコン
「」
「…」
侍女に何か言われ部屋から初めて出たのはハーシュッドへ着いておおよそ半日経った頃だった。
「(お腹が空いてしまいました…夕食でしょうか)」
「」
「このお部屋?」
案内されたのは化粧室と衣装部屋のようなところだった。
サランの着ていた服は今日のための、謁見用の立派な貴族服だ。滅多にソアでは着ない上等な作りだったが、女と言うのに力の強い侍女に脱がされてしまう。
「(服を女性に変えられるとは、少し恥ずかしいです…それに、この服は呉服屋がせっかく仕上げてくれたばかりのものでしたのに…)」
取り上げられた貴族服はどこかへやられた。
着せられた服はなんの飾りっ気のないワンピース。長袖となっていてふわりとしている袖口はサランの少ない筋肉をもうまく隠している。
「(寝巻き…ではないようですね…女性とはこのように足が冷える洋服で頑張っていたのですか…)」
次に案内されたのは大広間。テーブルには豪勢な料理が所狭しと並んでいる。
すでに側近たちは座っており、大きなベランダも空いていた。
「」
「…ここに座るのですか?…」
用意された立派な椅子へ案内されて座れば、王がタイミングよく現れる。
「」「」「」
「(やはり、わたしは除け者にされるのですね…)」
王が酒を手にして高らかに上げる。
みんなも上げる。
目はお前も上げろ、と言っている。
サランが真似をしてみると王が何か言う。
するとみんな大きな歓声を送る。わからないけれど、この行為の進行を邪魔することがないようにと気を張っていた。
「万歳」「万歳」「万歳」
古代語で祝いの席で使うだろう単語が聞こえ、はもしやこれが結婚式なのかと不安になった。
「(わ、わたしは…あたたかくて、キラキラしたものだと、思っていましたのに…これではわたしだけ部外者です…)」
みんなと同様にグラスを下げれば王に手首を掴まれる。
「(痛っ…)」
ベランダまで来たら下に国民が祝福に参じていることに気がつき、驚いた。
「」「」「」「万歳」
国民のイントネーションや表情から、優しい言葉がかけられていると推測できた。
「(嬉しい、です)」
ハーシュッドに着いて初めては笑顔になった。
ぐいっ
「え?」
小さな幸せに浸かっていたのもつかの間、王にいきなり腰を掴まれる。
そして
「んうっ」
口付けされた。いくらひどい態度の王だとしても、その容姿は美しい。その為サランは、間近に見えた王の美貌に緊張した。
「(…とても、あっ、唇が…あぁ…)」
初めてのキスに、サランは恥じた。それを見た国民はわっと盛り上がる。
しかしまた手首に痛みが生じ、食事の席に戻される。
食事はなんとも居心地の悪いものだった。先ほどまでの緊張と幸せが嘘のようにしぼんでいく。
家来は酒に溺れ、楽しそうに喋る。
侍女は静かにサランの背中を見続ける。まるで監視だ。
誰もが楽しく会話を嗜む中、サランだけは王としか話せない。
そしてその肝心な王は側近と話す。
「(また1人、……嫌です…また悲しい…」)
ちまちまと料理を食べ、侍女に連れていかれたのは自分の部屋。
「」
またわからない言葉だった。
サランはそっと部屋を見渡す。月明かりしかない暗い部屋。
「(……ここはわたしの部屋ですから、ここにあるものは使っていいのでしょうか…あれ、この本は辞書?こちらに本棚は先ほどまで無かったはず…誰か用意してくださったのね)」
もともと置いてあった、ぎっしりと本が収納された本棚の横にはたった辞書1冊のために置かれた2つ目の本棚。
辞書を持ち窓に寄り、ページを開く。月明かりで見えた単語から少しずつ触れていった。
「(…あ、愛している…ソアの古代語と少し似ているのですね…いつか王にこのような言葉を言う日が来るでしょうか…早く勉強していかなければ…、)」
コンコン
「」
「?」
サランは今夜始まる初夜、と言う名の心身の痛みに嘔吐してしまうことをまだ知らない。
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