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18歳以上ですか?
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会員制の店
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焦げ茶色の木製の扉はひっそりと闇に溶け込んでいた。表に出ているのはOpenの小さなカードのみで何の店か分からない、会員制で誰かの紹介がなければ入店お断りというのがルールのバーだ。
白田が事前に渡された紹介相手の名刺とメモを握り締め、何度もためらい、やっと扉を開く事が出来たのは背後に人影を感じたからだ。こんな場所で怪しい奴だと思われたら嫌だというとっさの判断で行動した、そうでもなければ回れ右して逃げ帰っていたかもしれない。
「いらっしゃい。」
案外狭い室内のカウンター越しに声がかかる。ビクつく内心を押し殺し、声をかけてきたマスターらしき中年の男性に会釈した。リュックの肩紐にかけた手に力がこもる、物珍しさと緊張でキョロキョロしてしまう白田に暖かい色合いの照明が少し落ち着きを与えた。
しかし、自分のTシャにジーンズという格好や、取り立てて良くもない容姿が浮いている気がしてならない。スーツをビシッと着こなした男性や、オシャレな服でグラスを傾ける男性に気後れする。もう帰りたいが、それだとあの男は暴れ牛の様に手がつけられないほど怒るかもしれずそれも出来ない。とりあえず酒の一杯だけでも飲んだという実績を残して帰るのが正しいだろう。
「あの、」
勝手がわからず出た声に応えるように、マスターがそつのない笑みを浮かべる。しかし目は笑っていない、白田がこの店の正当な客かどうかを探っている。
「当店は初めてですよね。どなたかのお知り合いですか。」
「あ、はい。えっと、」
慌ててカウンターへ行き、少し寄れた名刺を差し出す。自分の直接の知り合いではないので何となくやましい気持ちになり、字を追うマスターの視線をドキドキしながら待ち、軽く頷く動作に安堵する。
「本日は水上様と待ち合わせですか。」
「い、いえ!」
ぶんぶんと首を振り、顔も知らない水上の名刺を引っ込める。そもそも誰ともこのバーで交流するつもりはない。願わくば、一杯の酒を飲み干す間に自分とは関係のない男性達のやり取りから、何かしらのネタのエッセンスがこぼれ落ちてくれればいいのだ。
「ではこちらの席へどうぞ。」
カウンターの真ん中、マスターの目の前を勧められておたおたとリュックを抱えてスツールに腰掛ける。幸いにも両脇は空席で、何とか一息つく。
「何になさいますか。」
こんな席で何を頼んでいいのかもわからない。本来ならアルコールはあまり飲めないが、一人立ち寄ったバーで烏龍茶とはあんまりだろうかと気を回す。
「おススメでお願いします。」
何が来るかはわからないが、メニューを見ても酒の名前などわからない。白田は自分が無難な事を言えたと信じ、その結果アルコール強目の口当たりの良いカクテルを受け取った。
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